キュウリ収穫ロボットの研究
-距離センサを用いない収穫方法の検討-

農業生産システム工学 08-134 光永 賢一郎

1.はじめに

これまでにもキュウリ収穫ロボットの研究が行われてきたが,果実の位置検出にPSDなどを利用した距離センサを用いていたため構造が複雑になり,制御が困難であるという問題点が残されていた。そこで本研究では,距離センサを用いずに果実を収穫する方法を検討した。

 

2.実験装置

本研究では,図1に示すような傾斜棚で栽培されたキュウリを対象としている。マニピュレータには棚の角度と同じ傾斜角の上下スライドを有しているので,マニピュレータ中心から果実までの距離は,マニピュレータの上下の位置に関わらず,ほぼ一定である。視覚センサのモノクロCCDカメラは,座標の計算を容易にするため,ウエストおよびショルダ関節の旋回中心に配置した。果実の認識と識別を行うため,550nm ,850nmの光学フィルタをレンズの前方でモータにより旋回させ,画像入力を行った。エンドエフェクタは,前後移動する吸着部,開閉する2枚の平板形フィンガ,上下および前後移動して果柄を切断するカッタから構成されている。吸着部先端には吸着パッドが取り付けられており,真空ポンプからの真空圧によって果実を吸着する。また,吸着パッド内の圧力は圧力センサで検出し,果実を吸着したかどうかの判断を行う。

図1 収穫作業の概要

3.実験方法

果実収穫までのフローチャートを図2に示す。まず,視覚センサで画像を取り込み,ノイズ除去や背景との識別などの処理を行い,果実だけの情報を抽出する。次に,視覚センサから果実までの仮定距離(600mm)をもとに,吸着位置(果実上端から25mm)を算出してマニピュレータが移動すべき方向を決定する。吸着位置を目標にマニピュレータが移動している間,吸着パッド内の圧力は常に検出されており,圧力が変化した時点で果実を吸着したと判断し,マニピュレータの移動を停止する。同時に,その時点でマニピュレータの移動距離から,果実までの実際の距離および吸着位置を再計算する。吸着位置がカッタによって果柄を切断できる位置(果実上端から25±10mm)であれば,フィンガを閉じたあと果柄を切断して収穫を行う。それ以外の場合は,切断可能な位置まで移動して収穫を行う。実験は実際のキュウリ果実を用いて室内で行った。

図2 収穫までのフローチャート

4.結果及び考察

視覚センサから果実までの仮定距離を600mmとし,果実の位置を4段階に変化させた場合の実験結果の一例を表1に示す。マニピュレータの移動距離をフィードバックすることにより,果実までの距離はほぼ良好に検出され,吸着位置の誤差も±2mm程度におさまった。しかし,果実の表面に凹凸がある場合や吸着パッドが果実に対して左右方向にずれて接近した場合などは,果実を吸着することができず,距離検出および収穫作業が行えない状況があった。全体として,検出距離が実際の距離よりも大きくなる傾向が見られたが,これは吸着パッドが果実を完全に吸着するまで移動させたためである。今後,吸着パッドの形状や素材,および真空圧の再検討が必要であると考えられた。

表1. 実験結果の例

果実までの距離(mm)

500

550

600

650

検出距離(mm)

513.5

562.7

605.7

660.1

吸着位置(mm)

23

24

28

27

検出位置(mm)

22.26

23.56

27.32

27.64