高設栽培収穫ロボット -吸引面積制御による収穫実験-

高設栽培収穫ロボット -吸引面積制御による収穫実験-

山下 福海

1. はじめに
 これまで高設栽培されたイチゴを吸引して収穫するロボットの研究が行われてきたが,対象とする果実以外にも隣接した未熟果を同時に収穫してしまうという問題点が残されていた。そこで本研究では,吸引面積を変化させて,目的の果実だけを収穫する方法を検討した。

2. 実験装置
 ロボットは,3自由度直交座標型マニピュレータ(図1),エンドエフェクタ(図2),視覚部および吸引装置から構成されている。エンドエフェクタは吸引装置とホースで接続されており,先端の開口部分から果実を吸引し,果実の位置をフォトセンサで検出する。開口部にはモータによって5段階に開閉する2枚の羽根が設置されており,吸引面積を変化させることができる。これによって,対象以外の果実を吸引することを防ぐ。また,片側の羽根の上部には,果柄を切断するためのカッタが取り付けられている。視覚部(カラーTVカメラ)で入力した画像を用い,色による収穫適期の判断,果実の位置および大きさの検出を行う。

図1 マニュピュレータ 図2 エンドエフェクタ

3. 実験方法
 本学農学部内で栽培されているイチゴ(品種:とちおとめ)の熟した果実と未熟果を隣接した状態で視覚センサから約400mmの位置に配置し,室内で実験を行った。収穫の方法は,まず,マニピュレータが初期姿勢の状態で画像入力を行い,果実の位置および面積を計算する。次に,検出された果実の面積に応じて羽根の開度と吸引装置の吸引力(2段階)を決定し,果実に接近する。果実が吸引されて前方のフォトセンサが反応すると,羽根を1段階閉じ,隣接した他の果実がエンドエフェクタ内に取り込まれることを防止する。果実が完全にエンドエフェクタ内に吸引されて後方のフォトセンサが反応すると,羽根を完全に閉じてエンドエフェクタをY軸方向に移動させ,果柄を切断して収穫する。実験アルゴリズムを図3に示す。


図3 実験アルゴリズム

4. 実験結果及び考察
 実験結果を表1に示す。目的果実を75%収穫することができたが,そのうち未熟果も同時に収穫した場合が27%あった。目的果実を収穫できなかった状況としては,果実がエンドエフェクタの一部に接触して入りきらない場合が殆どであった。また,収穫した目的果実の40%に傷が発見された。これは,羽根やフォトセンサの検出部に接触したことが原因である。従来のエンドエフェクタは、目的果実に隣接した未熟果を殆ど全て収穫したが、吸引面積を制御することによって、未熟果の吸引は大幅に改善された。
 今後は,たとえ未熟果を吸引した場合であっても,その果柄を切断しないような機構を検討する必要がある。また,吸引力をさらに細かく制御したり、視覚部で果実の位置関係を検出し,未熟果が目的果実の前方に存在する場合には,その方向からの収穫作業は行わないような判断をアルゴリズムに加える手段も考えられる。

表1 実験結果
対象果実数収穫果実数未熟な果実を同時に収穫目的果に傷
2015(75%)4(27%)6(40%)