キュウリの形状認識に関する研究
西 卓郎
作物の栽培現場では,作業効率や収穫率を高めるため,一定の規則に基づき群生した状態で栽培するのが通常である。このような状況下で均一な植物の生産および生育診断等を行うためには,まず,群生した対象物の中から個体を識別しなければならない。
本研究では,群生して栽培される対象物の画像から個体ごとの生育状況を認識することを目的として,まず鉢で栽培されたキュウリ幼苗の子葉と本葉の認識および本葉の展開方向の認識を行った。続いて,鉢栽培の対象物の本葉の葉位の認識を行うため,キュウリの生長モデルを作成し,これと対象物の画像とを比較することを行った。さらに,モデルの作成時に対象物の生育時の光環境を考慮することで,株間30cmで露地栽培された群生したキュウリの二値画像から,個体ごとの本葉の枚数,着生位置を認識することを試みた。
幼苗の子葉と本葉の認識
キュウリは葉序が左回り,右回りのものがそれぞれ1/2の確率で出現する。本研究では,本葉枚数が1枚時,2枚時,3枚時の幼苗を上から撮影した3枚の画像から子葉と本葉の位置を認識し,その差分情報を用いて本葉の展開方向の認識を行った。
それぞれの画像中の子葉,本葉の位置は,二値画像の輪郭線を多角形近似することで分割し,その形状の複雑さを表す「平均展開率」および「輪郭線の複雑性」のふたつの指標を用いて分割後の輪郭線が子葉である確率,本葉である確率をそれぞれ求め,その結果からファジィ推論を行うことで認識を行った。このとき認識結果を既知の生長ルールと比較してフィードバック処理を行うことにより,認識精度の向上を試みた。
本葉1枚時の画像から第1本葉の方向を求め,2枚時,3枚時の画像の差分情報から第3本葉の展開角度を求めることで,約92%の確率で本葉の展開方向を認識することが可能であることを示した。
鉢栽培の対象物の本葉の葉位の認識
対象物の本葉が画像中に存在する位置を確率で表現するため,対象物の各器官の生長量と発芽からの経過時間との相関を確率で表す生長ルールを用いて三次元生長モデルを作成した。
ここでは対象画像から主茎の位置の認識を行い,これに生長ルールから算出されるそれぞれの本葉の分布確率を,幼苗の子葉と本葉の認識で得られた結果に従って配置することでモデルの作成を行った。また,対象物の画像については,大まかな構造を認識するため,粗視化処理を行い,その画像の骨格とフェレ長比から領域分割を施すこととした。
この領域分割を行った画像に対して,生長ルールを用いて対象物の本葉の確率分布モデルを作成することで,約73%の認識精度で本葉の葉位を認識することが可能となった。
群生した中からの個体の認識
鉢栽培および露地栽培の群生した対象物の画像に対して,それぞれ鉢栽培の対象物の本葉の葉位の認識で用いた方法で認識してみることで,モデルの作成時にそれぞれの対象物の栽培環境を考慮する必要があることを明らかにした。
群生した対象物の画像から個体ごとの本葉の着生位置を認識するためには,本葉の着生位置の確率を示すモデルに,環境要因として個体ごとの光環境を導入し,本葉の開度の変化を近似することとが有効であった。
本葉の開度は,それぞれの個体の1日あたりの受光量が最大となる角度の組み合わせを遺伝的アルゴリズムを用いて探索することで決定した。
これにより,生長ルールのみを用いたモデルを使用した認識では困難であった,露地,一条畝,株間30cmの条件で栽培されたキュウリの群生画像から,それぞれの個体の本葉枚数,および本葉の位置を認識することが可能となった。