キクの挿し木ロボットのための挿し穂供給システム

地域環境農学専攻(農地生産力開発学講座) 大農09-076 八木洋介

1. はじめに 現在までに切り花用キクの苗生産の自動化を進めるため、挿し木ロボットの研究を進めてきた。しかし、そのロボットには挿し穂束から挿し穂を一本ずつ分離し、供給することが必要である。本研究では、その自動供給可能なシステムの開発を目的とした。

2. 実験装置および方法 Fig.1に挿し穂供給システムの概略を示す。冷蔵庫により貯蔵されていた挿し穂の束を水揚げした後、水槽(660×340×240mm)内中央へ投入する。投入された挿し穂の束は、ソレノイドによって引き起こされる波で拡散および分離される。さらに、視覚センサにより挿し穂の位置を検出し、マニピュレータで水中の挿し穂を捕捉する実験を行った(実験1)。一方、同様に分離した後、水槽内にあらかじめ沈めておいたアミ板を上昇させ、そのアミの上の挿し穂を捕捉する実験も行った(実験2)。両実験とも、視覚センサには挿し穂の分光反射特性を考慮し、近赤外領域まで感度を有するモノクロTVカメラを使用した。

3. 挿し穂位置検出アルゴリズム 実験1では水槽全体を画像入力した後、2値化、ラベリングを行い、適当な面積を持つラベルの中でもっとも孤立度の高いラベルを候補とした。適当な候補が認識できない場合は2値画像から主茎を検出し同様の処理を行ったが、それでも認識し得ない場合はソレノイドを再びオンし、挿し穂を拡散した後、前述の処理を行った。候補が選定されると、その挿し穂を中心に70×70画素の狭い範囲の画像を再入力し、その中から有効面積を満たす挿し穂を捕捉目標とし、中心位置・挿し穂の方向を算出してマニピュレータで捕捉した。以上のような手順により、水中を移動する挿し穂の位置検出を正確に行った。実験2では挿し穂の移動がないため、画像の再入力は行わなず、候補が選定できない場合は画像収縮処理を行い、隣接する挿し穂との分断を試みた。

4. 実験結果及び考察 実験1の結果をFig.2に示す。成功率は90%強であり、失敗の多くは水中の挿し穂位置のずれによるものであった。特にソレノイドを作動させた直後に多く見られた。複数本把持されることもあったが、それはほぼ2%以内におさまった。

 実験2については、水槽内の挿し穂数によって結果が大きく異なった。実験1よりも挿し穂の重なりが多く、マニピュレータが把持する際に近隣の挿し穂も同時に把持し、成功率は低くなった。また、収縮処理を行うと茎の情報等が失われ、把持に失敗することも多く見られた。

4. おわりに 両実験結果を通じて、多くの挿し穂を水槽を用いて分離し、挿し木ロボットへ供給するには、実験1による方法が有効と考えられた。

 今後はロボットシステム全体を通じて成功率を低下させないよう、各要素の改良が望まれる。