水田雑草の抑制に関する研究
浦上 一美
1. はじめに
現在,水田雑草の防除手段の主流は多量の除草剤散布である。しかし,この化学的な手段は自然界や人体への影響が少なくないため,最近では慣行農法の改善,水田内に独自生態系の構築など,減農薬,無農薬で水田雑草の防除に取り組む体制ができつつある。そこで本研究では,水田内に独自生態系を構築する農法のなかで濁水による雑草の抑制について着目し,物理的作用による水田雑草の抑制について検討することを目的とする。
2. 実験装置及び方法
まず,湛水した土壌を撹拌することによって発生する濁水の遮光効果について実験をした。濁水は,撹拌5分後,24時間後に採取した。透明な容器に10pの深さまで水道水,及び濁水をいれ,その下に照度計を設置し照度を測定した。
栽培実験では供試植物は水田雑草と成育環境が近く,観察の容易なキショウブ(アヤメ科)を用いた。実験は気温・湿度・日長の制御が可能な環境室で行い,環境室の設定は,気温を昼間26℃・夜間21℃,湿度は40%,日長は昼13時間・夜11時間とした。まず,濁水の遮光効果に注目し,遮光が成長に与える影響について検証を行った。発芽した種子を完全遮光区・一時遮光区で成育させた。一時遮光区では,葉長が水深と同じ8cmになると遮光環境から日照環境へと環境を変更し,観察を続けた。つぎに,濁水を発生させる撹拌にも雑草の成長を阻害する効果があるのではと考え,撹拌による成長阻害の検証を行った。活着阻害区では,発芽したキショウブを第2葉展開まで成育させた後,土表面を撹拌し活着を阻害した。その後も定期的に撹拌し活着を妨げ続ける活着阻害区Bと,数回の撹拌の後静置し再び活着があるかを確認する活着阻害区Aについて観察した。
3. 結果及び考察
濁水の遮光効果を測定した結果を表に示す。水道水の遮光効果を0%としたとき,濁水を発生させた直後で98.2%,24時間後でも42.5%の遮光効果があった。24時間に一度の割合で濁水を発生させれば、遮光の効果を維持できると考えられた。次に,各環境下での成育実験の結果を図1に示す。成長不良か否かは,徒長と葉色によって判断した。完全遮光区では,葉色は白色,草丈は徒長した状態になり成長が停止した。一方,一時遮光区では,植物は葉色が正常な状態へと回復,徒長も停止し,徒長によって土に密着していた茎から発根し倒伏を防いだ。枯死する前に光を当てれば,植物はすぐに回復すると考えられる。よって,遮光効果は一時的な効果しかないと考えられた。活着阻害区A,Bで成育したものは,A,Bともに葉色の変化はないものの根・葉の伸長方向が不規則となり,葉数・根数は増加するが草丈は伸びなくなった。また,Aについては,撹拌をやめた後でも活着はできなかった。つまり,一度活着を妨げられ,土壌から離れてしまった植物は,周囲を水に囲まれ自身を固定することができなくなり,あらゆる方向に根と葉を伸ばした。その結果,不規則な伸長になった。従って,物理的な撹拌による活着の阻害は,雑草の成長抑制に有効であると考えられた。以上のことを基礎に,実際に湛水状態の水路で,物理的に撹拌することを試みた。雑草は土壌が湛水状態にある場合,土壌表面から1cmまでの深さでの発芽確率が高い。そこで,1cmまでを撹拌の範囲として考え,土壌表面を撹拌する装置を試作した。図2に示すのは,装置をホバークラフトで牽引させた様子である。
表1 濁水の遮光割合
水道水 | 濁水5分後(%) | 濁水24時間後(%) |
0.0 | 98.2 | 42.5 |
図1 各環境下での成育状況
図2 潅水状態での物理的撹拌