I はじめに
近年,切り花用キクの栽培は日本における花卉園芸の主流となっているが,生産行程のほとんどを人手に頼っており,特に苗生産には多くの時間と労力を要する。そのため現在,挿し穂の整形から植え付け行程までの自動化が研究されている。本研究ではそのシステムに挿し穂を自動的に供給できる装置の開発を目的とした。
II 実験装置及び方法
挿し穂供給装置は,図1に示すように,分離装置,位置検出装置,搬送装置から構成される。
2.位置検出装置
水槽の上方に設置した視覚センサにより分離後の画像入力を行い,2値化,ラベリング,挿し穂の中心位置算出を行った。なお,視覚センサにはキクの穂の分光反射特性を考慮し,近赤外領域まで感度を有するモノクロカメラの前に,850nmの光学フィルタを装着した。
3.搬送装置
得られた中心位置により5自由度マニピュレータで挿し穂をトレイ位置へ搬送した。マニピュレータのエンドエフェクタには開閉ストローク60mmを有する2本指ハンドを取り付けており,フィンガ長は160mmとした。また,先端部分には緩衝材として厚さ約20mmのスポンジを取り付けた。
本実験では投入する挿し穂の数を10本から50本まで5段階に変化させ,上記の装置を用いて,分離,位置検出および搬送実験を行った。
III 実験結果及び考察
1.分離実験
各本数の場合にソレノイドを1回作動させた場合と2回作動させた場合に分けて実験を行った。その結果,本数が多いほどその広がりも大きく,いずれの場合も挿し穂束は6秒前後で分離し,ソレノイドを2回作動させた方が1回だけのときよりもおよそ1.2倍の広がりを得ることが分かった。同時に,50本程度の挿し穂は上記寸法の水槽で分離できることがわかった。挿し穂数50本の結果を図2に示す。
今回,キクの挿し穂システムのための挿し穂供給装置の開発を行ったが,今後は視覚センサの認識アルゴリズムの改良,ならびに視覚フィードバックを用いた制御方法の採用によって,高速で正確な挿し穂の供給システムの開発が望まれる。また,そのうえで,本装置を挿し穂システムに組み入れ,システム全体を通しての実験を行う必要がある。