キクの挿し穂システムの自動化

挿し穂供給装置の開発

岡山大学農学部 芝野保徳 近藤 直 門田充司 八木洋介

Keywords:キク,挿し穂,供給装置,マシンビジョン,マニピュレータ

I はじめに

 近年,切り花用キクの栽培は日本における花卉園芸の主流となっているが,生産行程のほとんどを人手に頼っており,特に苗生産には多くの時間と労力を要する。そのため現在,挿し穂の整形から植え付け行程までの自動化が研究されている。本研究ではそのシステムに挿し穂を自動的に供給できる装置の開発を目的とした。

II 実験装置及び方法

 挿し穂供給装置は,図1に示すように,分離装置,位置検出装置,搬送装置から構成される。

1.分離装置
 挿し穂束を深さ100mmまで水を張った水槽(水面面積660mm×340mm)に投入し,その水槽を搭載した車輪付きの台車をソレノイドで振動させて水面に波を起こし,その波の働きにより挿し穂束を分離した。なお,引っ張りコイルバネはソレノイドの反力として使用した。

2.位置検出装置
 水槽の上方に設置した視覚センサにより分離後の画像入力を行い,2値化,ラベリング,挿し穂の中心位置算出を行った。なお,視覚センサにはキクの穂の分光反射特性を考慮し,近赤外領域まで感度を有するモノクロカメラの前に,850nmの光学フィルタを装着した。

3.搬送装置
 得られた中心位置により5自由度マニピュレータで挿し穂をトレイ位置へ搬送した。マニピュレータのエンドエフェクタには開閉ストローク60mmを有する2本指ハンドを取り付けており,フィンガ長は160mmとした。また,先端部分には緩衝材として厚さ約20mmのスポンジを取り付けた。

 本実験では投入する挿し穂の数を10本から50本まで5段階に変化させ,上記の装置を用いて,分離,位置検出および搬送実験を行った。

III 実験結果及び考察

1.分離実験
 各本数の場合にソレノイドを1回作動させた場合と2回作動させた場合に分けて実験を行った。その結果,本数が多いほどその広がりも大きく,いずれの場合も挿し穂束は6秒前後で分離し,ソレノイドを2回作動させた方が1回だけのときよりもおよそ1.2倍の広がりを得ることが分かった。同時に,50本程度の挿し穂は上記寸法の水槽で分離できることがわかった。挿し穂数50本の結果を図2に示す。

2.位置検出実験
 挿し穂束を分離した後に視覚センサにより水面の画像を入力し,挿し穂位置の検出を行った結果,本数が多いと各穂が重なり,複数の挿し穂をひとつの塊として判断されることが多かった。しかし,その周辺の挿し穂は完全に分離され,一本ずつ識別可能であった。挿し穂数50本の二値画像を図3に示す。

3.搬送実験
 得られた中心位置を手入力し,各本数においてそれぞれ50回ずつ実験を行った。結果を表1に示す。いずれの本数の場合も2割弱は,フィンガで挿し穂を押し下げ把持できない場合があった。これについては,ハンドの開閉ストロークを検討すると同時に挿し穂の形状認識を向上させることで解決すると思われる。また,本数が多いと2本の挿し穂を同時に把持する場合(表1のカッコ内)があったため,挿し穂が単独で存在する周辺部から把持することが適当と思われる。

IV おわりに

 今回,キクの挿し穂システムのための挿し穂供給装置の開発を行ったが,今後は視覚センサの認識アルゴリズムの改良,ならびに視覚フィードバックを用いた制御方法の採用によって,高速で正確な挿し穂の供給システムの開発が望まれる。また,そのうえで,本装置を挿し穂システムに組み入れ,システム全体を通しての実験を行う必要がある。