キクの挿し穂システムの自動化

− マシンビジョンによる穂の把持位置検出 −

岡山大学 芝野保徳・近藤 直・門田充司・小川雄一

Keywords:キク、挿し穂、マシンビジョン、2値画像、輪郭線追跡

T はじめに

 キクは日本を代表する花で、年間約20億本(平成6年度実績)が全国で生産されている。近年、キクの栽培効率を高めるため、セル成型苗生産システムが導入され、移植作業を始めとして様々な行程で機械化が促進されているが、穂の整形からトレイに植え付けるまでの挿し穂作業は、いまだに人手に頼っており、多くの時間と労力を必要としている。そこで、本研究ではロボットによる挿し穂作業の自動化をはかるため、マシンビジョンを用いたマニピュレータの穂の把持位置検出アルゴリズムの開発を目的とした。図1にキクの自動挿し穂システムの概略を示す。

 このシステムはTVカメラを用いて、搬送装置で送られてくる挿し穂の把持位置を決定したあと、マニピュレータが穂を把持し下葉整形装置を経て植え付け装置に運ぶ。植え付け装置では、10本ずつプラグトレイに植え付けられる流れとなっている。本研究では穂の把持位置は主茎端点より10@上部と設定したため、把持位置検出には主茎端点を見つけだす必要がある。ここでは、輪郭の複雑性を用いた主茎端点の決定方法について報告する。

U 実験装置および方法

 TVカメラにはキクの穂の分光反射特性を考慮し、近赤外領域にまで感度を有するモノクロカメラを使用した。そのレンズの前には850nmの干渉フィルタを装着し、画像中の対象物のコントラストを高めた。また、画像入力はキクの穂の真上より行い、対象物とレンズまでの距離を400mmとした。

 まず、入力画像を2値化、ノイズ除去したあと、2値画像の輪郭線追跡を行い、各輪郭画素のXY座標および画素番号をメモリにストアした。このデータをもとに調査した輪郭の複雑性とその2値画像を図2に示す。図中の直線距離とは、輪郭線上の一定長さ(30ドット)の両端を結ぶ直線距離であり、主茎候補点のような凸状の場合にはその値は小さくなり、なめらかな形状の場合には値が大きくなる。そこでしきい値T1を設け、このしきい値より低い谷の部分を主茎候補点(点A、B、C)とした。さらに、このキクの穂のように、主茎候補点が複数見られる場合には主茎候補点付近の直線性を調べ、その結果がしきい値T2よりも低い場合は直線性が低いと判断し、主茎候補点から外した。

 この結果、主茎候補点から点Aが外された。これらの処理を行い、さらに複数の候補点が残っている場合には、しきい値T3よりも低い谷の部分を葉の凸部(点D、E、F)として抽出した。このとき、前の処理で候補点から外された点Aも葉の凸部とみなした。次にこれらの主茎候補点および検出された葉の凸部の点を図3のように穂のフェレ径の中心点Oと直線で結び、主茎候補点の近隣の凸部の点と中心点とのなす角θを求めた。このθの値が設定値以下のとき、その候補点は葉の領域に含まれているとみなされるため、主茎候補点から削除した。この操作により、図3の場合は点Cが主茎候補点から外された。これらの処理で主茎候補点が、1つに絞られれば、その点を主茎端点としたが、主茎の候補点を1つに絞りきれない穂は、再び搬送装置に配置し、再処理を行うこととした。このキクの穂の場合には、点Bのみが候補点として残ったため、主茎端点と認識された。

V 実験結果および考察

 表1に実験結果を示す。今回の実験では「秀芳の力」と「精雲」という輪ギクを代表する2品種を使用した。本アルゴリズムを用いた結果、半数以上の穂の主茎端点は、しきい値T1、T2によって決定された。主茎候補点の近隣の凸部の点と中心点とのなす角を利用した方法は、複数の主茎候補点から主茎端点を認識するのに有効であり、いずれの品種においても9割以上の穂の主茎端点が決定された。また、このアルゴリズムで認識できなかった穂については、再処理を行うアルゴリズムとしたため、残りの穂に対しても誤認識は見られなかった。再処理される穂は配置し直され、前回と異なった画像が得られる可能性が高いため、主茎端点を認識できる可能性があると考えられた。このアルゴリズムに主茎近辺の形状の特徴を認識する処理を加えることにより、認識成功率はさらに高まると考えられた。

表1 実験結果

秀芳の力(100本)精雲(51本)
T1で決定できた本数5823
T2で決定できた本数714
θで決定できた本数2512
再処理本数102
誤認識本数00
認識成功率90%96%