ニューラルネットワークを用いた
一輪ギクの品質評価

岡山大学 芝野保徳,近藤直,門田充司,村越仁

Keywords :キク,ニューロ,品質評価,画像処理,2値画像

I はじめに

 ここ数年の間に切花も含めた輸入花卉の消費量は,国産花卉に比べ飛躍的に伸びている。国産花卉においても,市場競争力を付け,流通を円滑にし,市場を拡大することが望まれている。本研究で対象とする一輪ギクの市場における評価の現状は,束になった状態で競りに掛けられ,価格が決定されるため,必ずしも各々の花卉の持つ特徴が評価に反映しているとは言いがたい。またその評価基準は様々な要因,例えば,気候,栽培条件,評価者の感情等によって左右され一定ではない。

 そこで,人間の感覚という曖昧な評価基準で行われていた評価過程を画像処理およびニューラルネットワーク(以下ニューロと呼ぶ)を用いた定量的評価システムで行うことを目的とし,その評価決定因子の選択について考察した。

II 材料及び方法

 供試する一輪ギクは品種「精雲」を用い,標準区(1及び6区),摘心3本6株区(2区),液肥50ppm区(3区),液肥300ppm区(4区),密植区(5区,摘心2本16株),B―ナイン散布区(7区),少灌水区(8区),多灌水区(9区)の各処理区にて栽培した。標準区及び特に指示のない区は摘心1本16株で栽培した。そのキクをビデオカメラで画像を保存し,その画像を用いて2名の専門家による評価を行った。一人は満点を100とし,もう一人は5段階評価とした。また評価を決定するための特徴量として、各供試体の草丈,花首長,主茎径,第1葉全長等を実測すると同時に,2値化画像から葉部面積を測定した。これらの特徴量と専門家による評価との関係の例を図1,及び2に示す。

 図1に示されているように評価との相関はそれほど高いものではない。また花首長は長すぎるものも,短すぎるものも評価が低いとされており、図2からはその傾向がうかがえる。このように,各特徴量と評価との相関はあまり高いものではなかったが,今回は中でも相関のあったものをニューロによる評価を行う際の評価決定因子とし,それぞれ0.2〜1の5段階に正規化した数値を,図3に示すような構造を持つニューロを用い学習させた。学習の際の教師出力データは,専門家により行われた評価結果を同様に正規化したものを用いた。

図3

III 評価結果及び考察

 専門家による評価結果を図4に示す。これより,2名の評価に大きな違いが見られるものがあり,同一人物による任意供試体の複数回評価でも,評価を5段階に正規化した場合,1回目と2回目に±1段階以上の大きな差が見られるものがあった。

 図5には,ニューロによる評価結果を示す。この結果より,教師データとして用いた専門家による評価との誤差が±1段階以内で追従していることがわかる。

 これらのことより,各特徴量と評価の相関は高くはなかったが,本研究で選択された評価決定因子により,人間の曖昧な評価基準を定量化することができたと言える。今後は花色,葉色,全体のバランス等に着目し,画像処理による自動化を計るために,画像から抽出容易な特徴量の検討が望まれる。