顕微鏡画像による植物体の反応の解析
岡山大学 毛利健太郎・難波和彦・平松康平
1. はじめに
植物体の反応を調べる方法として収量調査や化学成分の分析等があるが、それらの方法では観察に長期を要したり植物体を傷つけたりすることになり,得られる結果もマクロなものになってしまう。リアルタイムに反応を解析する方法の一つとしては気孔の観察があるが,現在行われている気孔反応を測定する方法の多くは蒸散速度や気孔コンダクタンスといった間接的な情報により行われ、平均的な反応に関するものである。植物体の反応をより詳しく調べるためには、個々の気孔の非破壊かつ直接的な観察が必要となる。そこで、顕微鏡画像による気孔反応の観察システムを試作し、供試植物にポトスを用いて気孔反応の観察、解析を行った。
2. 実験装置および方法
気孔反応を解析するにあたり、気孔の特徴量を定量的に数値化しそれを比較する必要がある。そこで本研究では、顕微鏡から気孔を画像として取り込み、画像処理装置を用いて気孔隙の実面積を計測することにした。実験装置を図1に示す。顕微鏡は落斜式顕微鏡(対物レンズ50倍)を用い、葉の裏側の気孔を自然に近い状態で観察できるように上下逆さまに取り付けた。そして、観察する葉は表面に光がよく当たるように透明アクリルのステージに固定した。観察記録は顕微鏡カラーカメラ装置、VTR及びTVモニタにより行い、その再生画像から画像処理装置を用いて気孔隙を抽出し、その画素数をキャリブレーションすることにより実面積に変換した。植物体は温度と湿度の調節のできる部屋で明期3h、暗期3hで栽培し、ピント合わせは顕微鏡の微動ハンドルにモータを接続することにより外部から遠隔操作で行った。
図1 実験装置
植物体の環境条件による反応の違いを見るために、温度と湿度の設定を行った室内で3時間暗中に置いた植物体に光照射を行い、光照射開始から3時間の気孔隙の面積の変化を本試作システムにより測定した。実験の環境設定は表1の組み合わせでの計8通りで、それぞれの環境についてそれぞれ3回ずつ行った。
環境要素 | 設定 |
光強度 | 11.0klx | 1.5klx |
温度 | 30℃ | 12℃ |
相対湿度 | 80% | 50% |
3. 結果および考察
気孔の顕微鏡画像を図2に示す。気孔の長さは約30μmで、実験モニタ上では約1200倍で観察することが出来た。中央の黒い部分が気孔隙で光照射開始から10分後、30分後と次第に広がっていくのがわかる。
気孔隙の面積を測定した結果の一例を図3に示す。同図より光の強度が同じでも温度や湿度の条件によって異なった反応をすることがわかる。また、光の強度の大小によってのみ気孔開度は決定されているのではないこともわかる。これらのことから、気孔の開き方にはいろいろな環境要素が相互に関与しているものと考えられた。さらに気孔開度の変化の様子を詳しくみてみると、気孔隙の面積は光照射開始後30分程で一旦ピーク値を得ているが、その後すぐに定常状態になるわけではなく経過時間に対しゆらゆらしながら変化しているのがわかる。このある状態を目指して変化していく様子は、システム制御系における過渡応答と似ている。植物は気孔の開度を微妙に調節することによりガス交換や蒸散の制御をしているので、この変化の様子は、植物が自分の周りの環境に適応するためにフィードバックを行いながら気孔開度をコントロールをしているものと推測した。今後は、光、温度、湿度以外の環境要素についても検討していきたい。
図3 気孔隙の面積の経時変化