培養温度がキクラゲ菌床呼吸量の経時変化に与える影響

Effect of Temperature on Sawdust-Based Cultivation Kikurage (Auricularia polytricha) Respiration Rate

松井美貴子

1. はじめに
キクラゲは栄養価の高い食用キノコであり,近年国産生キクラゲの需要が拡大している。菌床栽培は菌糸を成育させる培養期と子実体を形成させる発生期からなり,的確なタイミングで発生操作を行う必要があるが,培養完了を見極めるのは容易ではない。生産現場では積算培養温度が1,200 °C日に達した日数という目安もあるが,定量的なデータはまだ十分ではない。本研究では,菌床の培養状態を定量的に把握することを目的として,菌糸の代謝活性を反映する「菌床呼吸速度」のモデル化を行った。加えて,積算培養温度による既存の一律的な培養日数指標の有用性を菌床呼吸量に基づいて評価した。

2. 装置および方法
供試材料はアラゲキクラゲ(共栄精密,AP1号)で,おがくずを主培地とした種菌植え付け直後の菌床(12 × 21 × 13 cm)を用いた。菌床の培養は暗黒条件を保った環境制御室内において行い,16–34 °Cの範囲で2 °C刻みに温度区を設定した。菌床を密閉可能な容器内に設置した後,容器内に送風ポンプからチューブを介して外気を供給し,排出された空気のCO2濃度を,ワイヤレスCO2ロガー(宝産商,TKR04A)を用いて5 min間隔で測定した。各菌床には独立した測定路を設け,60日間の連続測定を行った。菌床呼吸速度は,容器の出入口におけるCO2濃度の差分とそのときの空気流量から,CO2排出速度(mg/min)として求めた。また菌床の様子は定期的にカラーカメラで撮影した。

3. 結果および考察
菌床呼吸速度の推移の例としてFig. 1に26 °C区の結果を示す。
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Fig. 1 Change in respiration rate at 26 °C
菌床呼吸速度は培養開始後3日目以降から急激に増加し,8日目頃に最大値約2.5 mg/minに達した。その後,ゆるやかに減少して 60 日目には約0.8 mg/min となった。最大値に達するまでの増加期は菌糸の活発な伸長および代謝活性の上昇を示していると考えられた。撮影した画像による観察でも菌床表面に白く現れる菌糸が徐々に増えたことが確認され,呼吸速度がピークに達した日付付近で 菌床全体が白く覆われた。菌糸の伸長が落ち着くと,呼吸速度はそれぞれの温度固有の値に収束していった。この変化をモデル化するために近似式を作成した。数式モデルは,増加期で冪指数型モデル,減少期で冪指数減衰型モデルを採用し,各係数は誤差最小自乗法で求めた。モデル化はFig. 1 に示す通り良好で,近似曲線から菌床呼吸速度の最大値,最大値到達日数,収束値を求めたところ,各値は培養温度によって異なった。中でも最大値には温度依存性が見られ,26 °Cをピークとした形となることが確認された(Fig. 2)。
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Fig. 2 Relationship between culture temperature and maximum respiration rate
一般的にキクラゲの培養適温は20–30 °Cとされているが,わずかな温度差であっても呼吸速度に影響を及ぼすことから,菌床の培養期における温度管理の重要性が示された。
Fig. 3に,培養完了の目安として用いられている積算培養温度が1,200 ℃日に達した時点での積算菌床呼吸量を,モデル式から算出した結果を示す。
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Fig. 3 Cumulative respiration amount at 1,200 °C d of accumulated culture temperature
培養温度条件の違いに起因して積算菌床呼吸量に差が認められた。これは,培養温度によって呼吸速度の推移が異なり,呼吸量の積算値に影響を及ぼすためと考えられる。このことから,従来用いられてきた積算培養温度に基づく一律的な培養日数指標では,培養状態を十分に評価できていない可能性が示唆された。一方,本研究で構築したモデル式を用いることで,従来の培養日数指標では捉えきれなかった,培養温度ごとの呼吸特性を反映した培養状態の定量的評価が可能となり,より適切な培養完了タイミングの判断につながると考えられる。