パノラマ画像による促成栽培イチゴの果実数計測
徳留英明
1. はじめに
日本のイチゴは促成栽培が多く,長期間の効率的な安定生産のために,生長情報に基づく客観的な栽培管理が求められている。生長情報の一つとして,収量の予測や記録に有用となる果実数がある。適熟果は画像処理で検出可能であるが,適熟に達した日や収穫日の記録には位置情報による同一果実の追跡が必要となる。しかし,ハウス内でのGPS等の利用が困難であるため,本研究では画像のみによる位置検出を目的とし,栽培ベッド全体を合成したパノラマ画像による果実数の計測手法を検討した。
2. 装置及び方法
供試作物として,岡山大学ほ場のハウスで高設栽培されたイチゴを使用した。栽培ベッドの外側に果房が着生するように定植されるので,果実を撮影するために栽培ベッド側方から撮影を行った。将来は,ドローンによる撮影を想定しているが,今回は人がカメラを手に持ち,0.15 m/s程度で平行移動しながら撮影した。栽培ベッドは,9.5m(L)× 0.3m(W)×1.0m(H)で,カメラは一般的なスマートフォン(Apple iPhone 14 Pro)内蔵のものを使用し,解像度1080×1920ピクセル30fpsの動画を,昼間の自然光下で撮影した。動画からフレームを取り出し、パノラマ画像の合成を行う。ドローン等で移動しながら撮影した場合,軸が固定されていないため,カメラの移動速度,方向,角度にぶれが生じる。これを補正するため,一つ前のフレーム画像と重ね合わせるべき座標をテンプレートマッチング(以後,マッチング)によって決定し合成を行った。パノラマ画像からの果実検出には,汎用物体検出AIのYOLOv8を用いた。適熟果を目視で選別し,矩形領域で指定して学習させた。
3. 結果及び考察
図1に合成パノラマ画像の例を示す。カメラの移動速度や高さ等が一定ではない状況であったが,動画の前後フレーム間のマッチングにより,注目している株周辺を良好に結合することができた。マッチングには輝度情報を用いたが,撮影中の雲などによる明るさの変化の影響は受けなかった。また,作成したAIによって適熟果を検出して(図1中の矩形)総数を計測し,画像中の座標を位置情報として取得することができた。果実は日々生長し,大きさや色に加えて位置も変化するので追跡は容易ではないが,今後は得られた位置情報を手がかりに,前日や翌日の情報との比較で同一果実の対応付け,新たな適熟果,収穫果実の自動計測技術を開発していきたい。

図1 パノラマ画像内で検出された適熟果の例
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