促成栽培イチゴハウスでの画像による葉面積計測
Measurement of Strawberry Leaf Area in Green House Using Camera Image
徳留英明
I はじめに
日本はイチゴの促成栽培が盛んである。イチゴは本来春から初夏に旬を迎えるが,日本ではクリスマスなどの需要に応えるために,促成栽培によって12月頃から5月ごろまで栽培がおこなわれている。促成栽培では,特に休眠の制御が難しく,そのための生長情報計測に基づく環境制御が望まれている。大規模なほ場では生育が不均一になりやすく,より多くの個体計測が必要なため,生育評価の自動化が有効である。本研究では,評価指標の一つである葉面積を,栽培ベッド上方から撮影した動画から計測する方法を検討した。
II 実験装置
供試作物として,高設栽培されたイチゴ「とちおとめ」を使用した。イチゴはクラウンと呼ばれる基部から葉柄が伸び,葉は3つ(小葉)で1組の形状を成している(本葉)。葉が繁茂してくると,新しい葉は内側から発生するので,横から視認するのは難しく,栽培ベッド上方から撮影することにした。
Fig. 1 Cultivation bed and experimental equipment
栽培ベッドは,(8.4×0.3×1) m(長さ×幅×高さ)であり,1列42株で2列植付けた。将来の撮影はドローンを想定しているが,今回はカメラとベッドの距離を一定に保つため,台車を用いた撮影装置を試作した(Fig. 1)。小型機で一般的な4つのロータからなるクアッドコプタを想定し,4つの送風装置で下降気流を発生させた。カメラ(因幡産業社製,IB-MCT001)の位置は,前方2つのロータ中央から前方70 mm,下方70 mmで,ベッド上面からの距離750 mmとした。
この台車をレールに乗せて,等速度で列方向に移動させて,昼間の自然光下で動画を撮影した。撮影は1列ずつ,画面の左右中央に株の中心位置を合わせ,定植から1ヶ月間,数日おきに13日行った。
III 画像処理方法
1. 原画像取り出し
まず,動画から画像処理のための静止画を抽出した。移動に伴う視点の変化や気流の影響で,Fig. 2のように次第に葉の見え方が変わるため,株ごとに全ての葉が画面内に収まる範囲で,原画像として500×500ピクセルで11枚取り出した(Fig. 3 (a))。
Fig. 2 Examples of original image
2. 背景削除
原画像から,マルチなどその他背景を削除した。様々な光条件の画像から,葉領域と背景の色情報を調べたところ,L*a*b表色系での分離が良好であった。RGBからの変換は計算で行った(Fig. 3 (b))。
3. 収縮処理とラベリング
多くの葉同士が隣接していたので,分離し,残った背景ノイズを削除するために13ピクセル収縮処理を行い,領域のラベリングを行った。ここで画像の端に接している領域は,葉の一部しか見えていないので,計測対象外とした(Fig. 3 (c))。
4. 計測対象の本葉の決定
分離した本葉の輪郭を決定するために,収縮した13ピクセルだけ膨張処理を行い,葉を元の大きさに戻した(Fig. 3 (d))。収縮処理で分離できなかった葉が重なっている領域は本葉とは輪郭が異なっているため,円形度の下限を0.53,上限を0.80として削除した(Fig. 3 (e))。
5. 対象株の推定
本葉がどの株に属しているかを,形状を利用して推測した。3枚の小葉が底辺の長い3角形を構成していると仮定し,葉幅を底辺,頂小葉の先端を頂点とするように描画した3角形の頂点から底辺に伸ばした垂線が,株の中心付近の領域を示す円内を通過すれば,その株に属しているとした(Fig. 3 (f))。最後に葉面積を求めた(Fig. 3 (g))。
6. 裏返った葉の削除
本実験では,撮影時にドローンの飛行を想定した下降気流を発生させたため,葉の裏返りが多く見られた。裏返った葉の多くは,他の小葉と重なっていて,葉面積を正しく計測することができないため,計測対象外とした。葉の裏側は表側と比べて,明度が高いのでこれを利用した。Fig. 3 (h)はここまでとは違う葉の例で,左側が裏面である。
Fig. 3 Leaf recognition algorithm
IV 実験結果および考察
葉面積は11枚の画像中,検出に成功したものを平均して算出した。Fig. 3 (g)で示した株の,2週間の計測事例をFig. 4に示す。Aの本葉は1,280から2,400 mm2に増加したのに対し,Bは何らかの理由で生長しない様子が計測できた。Cは4日目までの増加が記録できた。A,B,Cの葉はともに,株の生育が進み,葉の重なりが大きくなったことで,他の葉との分離ができなくなり,途中より計測不可となった。
まだ測定誤差が大きく,絶対的な値としては信頼度が低いが,今回のAのような経時変化を捉えることで,その期間の生長速度が推測でき,評価指標となることが期待できる。
Fig. 4 Example of leaf area measurement results