家庭用モモにおける出荷基準の検討

Study of Household Peach Shipping Standards Based on Camera Image

田窪美帆

1. はじめに
岡山の特産品である白桃は,農家での目視による選果により,贈答用「秀品」基準以上のものは農協に,明らかな傷や奇形がある場合は加工用として業者に,それ以外は家庭用として小売店にあるいは通販直販として出荷される。収穫後に腐敗の可能性があると判断された果実は出荷されないが,腐敗が生じない果実も少なからず存在し,歩留まりの低下による収入減少の要因となっている。そこで本研究では,腐敗の初期兆候を画像から観察し,その検出手法を検討した。

2. 実験装置および方法
2021年7/31~8/7に岡山県内の白桃農家で収穫された「おかやま夢白桃」と「川中島白桃」を供試材料とし,一般的な判断基準に基づいて,のちに腐敗する可能性があると農家が判断した果実135個を常温で1週間保存し,1日おきに撮影を行った。現場でのタグ付けを行うために,画像の加工が容易に行えるスマートフォンのカメラを用い,室内の撮影は白色LEDを光点が写りこまない角度で照射して,腐敗の可能性のある部位だけでなく,果頂部,底部,側部の計6面について行った。今回腐敗は,果肉が軟化してその部位の面積が広がっていく状態,と定義し可能な限り1週間後まで撮影を行った。腐敗した果実の撮影画像は,腐敗個所を初日までさかのぼり,初期兆候の識別が容易かどうかを観察した。識別が難しい症例についてはLabとHSVの色情報の差異を検証した。
3. 実験結果及び考察
135個中71個が腐敗したが,逆に半数は出荷できたともいえる。Table 1に症状別の腐敗果実数を示し,初期兆候の判別の容易さで分類した。
虫害は,夜蛾などの刺し傷で,明らかに果皮に穴が開いているので,識別が容易でほとんどが腐敗した。腐敗しなかったのはカメムシの痕跡を疑ってサンプリングした個体で,果皮の損傷はなかった。このことから,果皮に穴が認められる虫害は出荷できないことが分かった。一方,外傷では果皮に損傷が認められても,腐敗しないものがあった。これは,収穫より早い時点で生じた傷が樹上で修復したためと考えられ,傷口が湿っていなければ腐敗しなかった。裂皮も同様で,今回多くは乾いていたので腐敗しなかった。傷口が乾いているかどうかは,すべての症状共通の重要な出荷基準と考えられた。ジャミは,果皮に1 mm程度の乾いた凹ができる生理現象であるが,外観から識別が容易で出荷しても問題ないことが分かった。
圧縮損傷はいわゆる「あたり」のことで,指で触った跡などからでも軟化してしまう現象である。果皮内部での変化は初期では表面に褐変が現れないため識別が難しかったが,症状がみられるとほとんど腐敗した。果肉褐変はさらに内部から進行するので,外観からの識別は不可能ではないものの難しかった。いずれも,今回の定義では腐敗としたが,果肉の軟化は著しく食味を損なうので,出荷すべきではない。ブラウンロットは果皮に茶色い点が現れる現象で,多くが腐敗するのでこれも出荷すべきでないが,果皮の模様や雨などによるシミでも茶色い点が見られるため,それらとの区別は難しかった。
果頂部のくすみは,果頂部に圧縮損傷のような色変化がみられたもののうち,半数が腐敗した。腐敗したものとしなかったもの(以降,色変化)の識別は目視では難しかったので,画像の色情報を計測した。その結果,明度(L,V)では腐敗と色変化部位に差はなかった一方で,色相Hや彩度S(Fig. 1)は,正常と腐敗部位の中間ぐらいで色変化部位が推移したことから,これらの情報で腐敗するものを識別できると考えられた。

Table 1 Classifying causes of peach rot
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Fig.1 Saturation of rot or no rot peach top area