労働負荷評価のための2次元映像による作業姿勢の数値化

明日大尚

1. はじめに
農作業などの労働負荷評価は,重量物の取り扱いなど身体的負担の大きい作業を中心に評価が行われてきた。様々な姿勢の評価は,OWASなど,実際の現場での作業姿勢を動画から分類する方法も利用されているが,立位か座位か,手の位置が肩から上か下か,など大きな姿勢変化にしか対応していない。そこで,本研究では現場で撮影した動画から各関節の角度を求めて,注目する関節まわりのモーメントを評価指標に用いる方法を検討した。

2. 関節角度の算出方法
2次元映像は3次元を投影した状態で撮影されるため,奥行き方向に傾きがあると実際の長さより短く写る。今回はこれを利用して,奥行き方向の傾きを求めた。ここで,関節角度を2つの線分が成す角度(γ)として,2次元映像中で線分が成す角度(θ)から,奥行き方向のそれぞれの線分の傾き(α,β)を用いて以下のように計算した。ただし右辺は,2つの線分が奥行きに対して同じ方向に傾いていれば減算,違う方向なら加算となる。
3. 実験装置および方法
カメラはスマートフォンのものを,画像処理ソフトにはオープンソースのImageJを用いて,動画から取り出した静止画から線分の長さや,角度を求めた。
まず,算出方法の精度を求めるために,垂直平面上に描いた2つの線分の角度を求めた。カメラに正対した時の線分の長さを基準として,垂直平面の水平角度を変更しながら,検証を行った。つぎに,実際の人体で関節角度を求めて,関節まわりのモーメントを試算した。関節位置も画像から推測できることが望ましいが,今回は関節にマーカを貼り付けて基準点とし,マーカを結ぶ線分を描画した。
4. 実験結果及び考察
精度は−2.36~5.22 °であった。カメラに正対しているときの水平角度を0とすると,角度が大きくなるほど誤差が大きくなった。これは,カメラとの距離に応じた視差が原因の一つと考え,見かけ上の長さに算出した補正値を適用して再計算したところ,精度は−0.91~3.51 °となった。実際の人体の関節角度計測の例として,図1のように右腕の肘を屈伸したときを示す。マーカを結んで線分を描画し,画像中の角度θを求め,γを算出した。モーメント計算に必要な腕の質量は,一般的な日本人の数値を用いた。体重は60 kg,上腕,腕,手の体重比は4,3,1 %とした。計算の結果,肘の角度が(a)から(b)と大きくなるに伴い,肘だけでなく肩にかかる負荷が増加することを,モーメントという数値で表現する事ができた(表1)。今後は実際の農作業での姿勢を,動画から自動的に数値化するプログラムを開発する予定である。

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式1
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(a) 曲げ
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(b) 伸ばし
図1 入力画像
表1 モーメントの計算例
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