ニューラルネットワークによる促成栽培イチゴの花及び果実識別

大藤一輝

1. はじめに
日本ではイチゴの促成栽培が盛んで,半年以上市場に供給されるが,これには成育に応じた的確な環境制御が欠かせない。中でも,株ごとの花や果実の数や熟度は,収穫期や収量の予測だけでは無く,その時の株の成長状況を表す情報として大切である。本研究では,これらの情報を画像処理によって取得することを目的として,花,果実と背景との識別をニューラルネットワークを用いて行った。

2. 実験装置および方法
イチゴの品種は「とちおとめ」で,ビニールハウス内で高設栽培されたものを,昼間定期的にデジタルカメラで撮影した。ニューラルネットワーク開発ツールにはSONYのNeural Network Consoleを用い,基本的な中間層1層と,中間層を1層加えた2層の構成を用いて2値分類を行った。教師有り学習であるので,花や果実の画像は手作業で正方形の領域で抽出し,同様に抽出した葉や,それ以外も含む背景の画像をそれぞれ200枚準備した。果実は熟度に応じて色が緑から白,赤と変化していくが,それらを4段階で分類し,それぞれ200枚準備した。その中から,学習に用いる枚数を50,100,200枚と変化させ,学習結果を比較した。この際2割を評価用に用いた。また,学習回数は損失関数が十分小さくなり,過学習が起きないところを目安とした。

3. 実験結果及び考察
表1に学習に用いた枚数別の,分類対象の認識確率を示す。一番上の行の花と葉の2値分類を行った結果では,学習回数が50回の時,花を85.8 %の確率で花として,葉を83.2 %の確率で葉として認識できた。学習に用いる画像の数が増えると花の認識確率は向上したが,葉の方はほとんど変化が無かった。花は向きによって見え方が大きく変化するので,教師データが多いほど認識確率が向上したのに対して,葉は後方の葉も重なって映り込むため,枚数を増やしてもあまり画像の特徴に変化が無かったものと考えられた。一方,葉以外も背景に含めると,認識確率は下がった。一般に,背景には様々な要素を含んだ方が認識確率が良くなるとされているが,今回のハウス内は花の色と同じ白色基調であった事が原因であると考えられた。
果実と葉や花との認識結果は,4段階の果実それぞれについて2値分類を行い,確率を平均した。学習枚数が50枚でも90 %以上であり,100枚で97 %以上となった。果実画像の切り出しは果実の大きさによらず,領域いっぱいに果実が入るように行ったので,表面の凹凸が特徴的となり他との区別が容易であったと考えられた。
熟度間の結果は,4段階それぞれの組み合わせでの確率を平均した。今回の4段階は色の違いが,緑,白,白と赤,赤と明確であったため,いずれも高い認識確率となった。
中間層を1層加えた2層での結果を,1層での認識確率が少し悪かった花の場合について,表の下の2行に表示した。認識確率は大幅に改善し,学習枚数100枚以上でほぼ100 %となった。
以上のことから,ビニールハウス内でのイチゴ果実認識はそれ程多くの画像を用いなくても,1層のニューラルネットワークで十分行う事が出来ることが明らかになった。花の認識も2層の深層学習で,高い精度で可能であった。画像中からそれらの領域を特定し,数や熟度を測定するアルゴリズム開発は今後の課題である。

表1 分類対象別の認識確率(%)
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