ザンビア共和国ムピカ郡農村部における農業の現状と課題

Current Situation and Issues of rural areas agriculture in Mpika District, Republic of Zambia

岡田晃治

1. はじめに
国連は,2015年に持続可能な開発目標(SDGs)を採択し,その中で貧困の撲滅を掲げている。サハラ以南アフリカ地域の貧困人口は世界の半分以上を占め,うち6割が農村部に居住している1)。先進国やNGOの支援は,即効性のある食糧援助やインフラ整備等が中心で,現在も幅広く行われている。JICAを通じた日本の支援の1つにボランティア事業があり,著者は青年海外協力隊として,農業支援を目的に2017年から2年3ヶ月ザンビア共和国に派遣された。ザンビアの貧困率は64.4 %(2010年)と非常に高く,貧困層の生活や所得の向上が急務となっている。本研究では,青年海外協力隊での体験から提起した様々な問題を起点とし,任務の傍らで,現地での情報収集や農村部における生活や農業についての聞き取り調査も行い,持続可能な観点から今後の支援はどうあるべきか考察を行った。

2. 調査結果
農村部では,農業を生業とした自給中心の生活が営まれていた。人々はシマ(トウモロコシの練り粥)を主食とし,バランスの良い食事を取っていた。農作業は耕起から収穫まで全て手作業であった。農家への聞き取りでも特に鍬を使用した耕起作業が最も大変との回答で,半分以上が1 ha以上農地を保有していたが,約8割は作付面積が1 ha未満であった(Fig.1)。ムピカ群の農家1戸当たりのトウモロコシ作付面積は0.55 ha / 戸であった。
灌漑水路や農地設備も未整備なため,降雨に依存した農業が行われ,雨季は降水を利用してトウモロコシが,乾季は河川や地下水を利用して数種類の野菜が栽培されていた。生産された農産物は,自家消費量を差し引いた余剰分を市場に販売して収入を得ていた。政府は農家の所得向上を目的に穀物の買い取り制度を実施していたが,結果として単価の安いトウモロコシに生産が集中し,1 ha当たりの収入は300 USD程度であった。農村部の人々は低所得により貧困に陥っており,保有農地2 ha未満農家の貧困率は8割以上であった。しかし,農村部の貧困層が食べ物に困ることはほとんどなく,低所得でも生活は可能であった。それでも,自給で全てを賄えるわけではなく,種子や肥料,衣料品等の購入のために貨幣がある程度必要であった。特に教育への投資は貧困層の大きな課題の1つで,年間1人当たり180 USDの学費がかかる中学・高校に子どもを通わせることが難しくなっていた。これも,次の世代への貧困の連鎖の一因と思われた。

3. 考察
貧困層への支援として,従来であれば農業機械の寄贈等の直接的な援助が考えられるが,燃料やメンテナンス等,持続可能性の低い要素を含む。そこで,持続可能な開発の観点からは,現場の状況に応じた支援によって,貧困層が無理のない範囲で所得を増やせることが望ましい。ザンビアは温暖な気候と水資源に恵まれ,多様な作物生産が可能なため,栽培品目が少ない農村部では新規作物の導入により収入源を創出できる可能性が高い。例えば,乾季に稲作を0.5 ha行うことで720 USD程度の収入になると試算され,雨季のトウモロコシ生産による所得を加えると国際貧困ラインを超え,子どもを通学させる余裕もできると思われた。実際に現地で農家と稲作に取り組んだところ,肥料の必要量が少なく,現地に適応したNERICAという品種もあるため,容易に栽培が可能で,販売先としても国内外から多くの引き合いがあった。
一方,現場の状況に応じた支援には多種多様な情報が求められる。現在は農業普及員や海外ボランティア等が農業に関する情報を提供しているが,支援の影響範囲が限られたり,情報が役に立たない人もいたりしたことから,ニーズに合った情報を場所に関係なく獲得する手段が必要であると考えた。そこで,携帯電話の農業への利用を提案する。バングラデシュでは,ICTを用いた貧困層への農業情報支援により,単位面積当たりの収入向上と生活改善が報告されている2)。ザンビアでは貨幣取引にSIMカードが広く用いられ,農家にも携帯電話が広く普及している。農業への利用により遠隔地から情報を取得でき,オンデマンドでの入手も可能となる。最近では農業情報を提供する企業も登場し,アクセス可能なソースが増えつつあるが,農村では情報を自身では活用できない人々が未だに多い。したがって,農家の意思決定を支援するシステムの構築も重要である。例えば,農地の位置情報や環境条件等を入力することで,栽培に適した作物や生産によって予測される収入等の情報を提供するシステムがあれば,農家の新規作物導入の動機付けになる。さらに作付け結果のフィードバックを得れば,情報の正確性や多様性も高められる。これにより,農業の選択肢を広げ,貧困から抜け出す機会を作り出すことが,持続可能な発展に欠かせない技術になると考えられた。

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Fig. 1 19 farmers held and planted farmland area in Dick village