弾性限度を超えない荷重を及ぼす気流への長期的な暴露が促成栽培イチゴの収量に与える影響

勝部史也

1. はじめに
日本ではイチゴの促成栽培が盛んで,近年では大型施設での栽培も行われるようになった。このような施設では,空調や換気のため,大型の循環扇や換気扇が用いられるが,長い葉柄と3枚の葉を持つイチゴでは気流の影響を受けやすいことが想定される。本研究では気流の影響を確かめるために,まず葉柄の弾性限度を測定し,その際の葉面積と風量を算出した。つぎに,長期的な影響を確かめるために,弾性限度以下の荷重となる風量で実験区を設定し,収量を測定した。

2. 実験装置および方法
イチゴの品種は「とちおとめ」で,弾性限度で物理的な損傷を受けると仮定して,葉柄と,株元の引張り試験を行った。葉柄は両端支持中央荷重で,株元は葉柄のはく離を想定して片持ち支持で,それぞれ荷重と変位の関係を求めた。つぎに,気流によって葉の付け根が受ける荷重を求めるために,葉面積が1,200から16,000 mm2の葉30枚を供試し,風洞内で0.004から1.2 m3/sの風量時の荷重を測定した。これらの結果をもとに,弾性限度を超えない範囲の荷重が葉に加わる風量を求め,3か月間毎日風をあてて栽培し,収量を調べた。各風量区は120 cm長の栽培槽で,12株ずつ供試し,その上方に設置した送風機を5 cm/sで棚の長手方向に動かしながら,1日に1回群落に風を加えた。

3. 実験結果および考察
葉柄の弾性限度は茎断面積の増加に伴い大きくなり,平均断面積11.3 mm2の際に約2.09 Nであった(図1)。これは一般的な材料と同様に,応力は断面積に依存し,0.18 N/mm2であった。一方,はく離では一般的には接合面積が関係するとされるが,今回はそれと関連する葉柄断面積には依存せず,平均0.49 Nであった。このとき株元から荷重作用点までの平均距離は20.6 mmであったので,10.1 N・mm以上のモーメントで植物体は,弾性限界となっていた。つぎに,気流によって葉の付け根が受ける荷重は,葉面積と風量それぞれに正の比例関係となった。これらの関係をもとに,10.1 N・mmのモーメントが株元にかかるときの,葉面積と風量の関係を求めた(図2)。この関係から,平均的な葉面積10,000 mm2時の弾性限度以下の荷重となる風量は0.9 m3/s以下となり,無風と送風機の最少から6段階(培地面で0,0.21,0.33,0.46,0.58,0.71,0.83(m3/s))で風量区を設定した。長期実験の結果,目視で確認できる葉柄や株元の損傷は無く,収量に有意な差はなかった(図3)。

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図1 茎断面積と弾性限度に達する力
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図2 株元の弾性限界時の風量と葉面積
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図3 収量