促成栽培イチゴの成育制御に資する生体センシングシステムの構築
─ センシング指標の検討 ─

Establishment of a Bio-sensing System for the Forcing Culture Strawberry Growth Control
― Examination of the Sensing Indicators ―

茨木昭年

1. はじめに
 日本ではイチゴの促成栽培が盛んで,半年以上市場に供給されるが,これには成育に応じた的確な環境制御が欠かせない.しかし,他の作物と同様に勘と経験の豊富な農業従事者は引退に伴い減少傾向にあり,現場では成育情報を客観的に測定する手法が望まれている.株ごとに長期間経時的な測定を行うためには画像計測が有効であるが,成育評価に適した計測手法は十分検討されていない.そこで本研究では,画像計測のための測定項目を検討するために,環境を変化させて,葉や茎の測定と観察を株ごとに行った.

2. 実験装置および方法
 ハウス内で約1か月間同様に高設栽培された「とちおとめ」を22株ずつ供試し,環境変化として温度を用いて成長の差を観察した.「とちおとめ」は最低気温が8 °Cを下回らない事が栽培指針なので,5 °C安全を取って13 °Cを下限とした暖房を行った対照区と,6 °Cを下限とした低温区を設けた.2018年11月12日から10週間,各株を週に一度の間隔で測定した.測定項目は,新葉の発生頻度,各個葉の葉柄長,葉柄径と葉面積で,葉の発生頻度は目視で,葉柄長はメジャーで,葉柄径はノギスで測定し,葉面積はデジタルカメラによって1枚ごとに30 cmの距離から撮影した画像を処理して推定した.

3. 調査結果および考察
 総葉面積の測定結果をFig.1に示す.葉面積は光合成可能量に直結するので,植物の状態を表すのによく用いられるが,今回面積が減少する期間があった.この時期栽培管理で行われる摘葉の影響を大きく受けたからで,経時的な指標としては用い難いことが分かった.
 新葉に注目すると,その発生頻度はいずれの区も漸減したが,低温区の方が次の葉が発生するまでの間隔がより長くなっていった.成長速度にも差が生じ,毎週の葉面積増加量は低温区の方が早く低減した(Fig.2)(点線が対照区,実線が低温区).一方,新葉から発生順に葉を番号で識別すると,第3葉以降では両区ともほぼ成長が止まっており,成長を表す指標として使えず,第2葉も次第に第3葉の状態に近づいていくため,使えなくなっていった.葉柄径はいずれの区も変化量自体が画像計測には小さすぎるものであった.葉柄長の変化量は対照区との差はあったが,今回の温度差に対しては,葉面積増加量ほど良い応答性を示さなかった(Fig.3).
 したがって,総葉面積は任意の日付の光合成能力を測るためには有効であるが,経時的な長期計測には,新葉の発生頻度や,その葉面積の増加量が指標として相応しいと考えられた.しかし,いずれも画像計測上では小さなターゲットとなるので,撮影には工夫が必要である.

ibaraki1.jpg
Fig. 1 Total leaf area
ibaraki2.jpg
Fig. 2 Weekly increment of new leaf area
ibaraki3.jpg
Fig. 3 Weekly increment of new leaf petiole lengthes

秘蔵ムービー