広島県生口島のウンシュウミカン生産現場の現状と今後の課題

Current Trends and Issues of Satsuma Mandarin Orchard in Ikuchi-jima island, Hiroshima

藤本晟生

1. はじめに
 広島県の島々では温暖な気候を活かしたウンシュウミカン(以下ミカン)生産が,現在でも主要かつ重要な産業である.しかし,高齢化や後継者不足で存続が難しくなった農園も少なくない.このような農園は耕作放棄され,放置された果樹は虫害や鳥獣害の温床となることが懸念されている.そこで,現場の現状把握を目的として,生口島のミカン生産者を対象として,アンケート調査を行った.

2. 調査対象
 広島県生口島で,各地区のまとめ役をしている生産者12名に回答頂いた.全員男性で年代は40代1名,50代2名,60代5名,70代3名,80代以上1名であった.農業形態は専業農家10名,第一種兼業農家1名,第二種兼業農家1名であった.規模別では,50〜100 a未満が2名,100〜200 a未満が7名,200 a以上が3名であった.

3. 調査結果および考察
 アンケート項目は後継者の有無,負担を感じる作業,危険を感じる作業,傾斜地での危険性,労働力不足,主幹形ミカンに関してなどで,後継者がいるのは4名で,労働力は全ての方が特に収穫時に不足すると解答した.Fig.1に負担に感じる作業の集計結果を示す.複数回答有で,防除が最も多かった.これは,傾斜地の多くでは乗用車両の運用が難しく,動力噴霧器を背負うことが大変であるからとのことであった.収穫や摘果は,人手不足による長時間労働もあるが,樹形が半球状に大きく展開する現行の栽培様式(開心自然形)では,枝の中に分け入っての作業が負担になるとのことであった.一方危険と感じる作業(Fig.2)では,運搬が最も多くなった.生口島のミカン園の多くは緩斜面であるが,通路の整備は限られており,斜面で重たい収穫物を運ぶ事に危険を感じていた.収穫や剪定は,張り出した枝が邪魔となり,脚立による不安定な場所や姿勢での高所作業が危険とのことであった.
 これらより,負担や危険の多くは斜面という地形と,栽培様式に起因していることが分かった.これらに対して,広島県総合技術研究所農業技術センターは,主幹形という新しい栽培様式を提案している.これは,中央の幹を垂直に伸ばし,側枝を限定して幅の狭い樹形とすることで,作業能率を向上させるだけでなく,品質の向上も期待するものである.これに加えて,栽培面を段々畑のように水平に整備することで,車両の導入も目指している.この栽培様式は11名の農家の方がご存知であったものの,導入には消極的であった.その理由をFig.3に示す.最も多かったのは時間が無いであり,次にメリットが良く分からないであった.前者は改植を行う事業所を創設することで,後者はまだ新しい技術なので,導入事例が多くなって成功例が増えてくれば解決していくだろうと考えられた.
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Fig. 1 Works which farmers feel very hard
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Fig. 2 Works which farmers feel dangerous
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Fig. 3 Reasons which farmers feel no to introduce new method, central leader trained trees

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