キクの黄斑発生に関わる環境条件の検討
− ほ場での計測と定量化 −

Influence of Environmental Conditions on the Chrysanthemum Leaf Yellow Spot
― Measurement and Quantification under Field Experiment ―

田中正浩

1. はじめに
 近年キクの栽培現場では,多くの品種において葉身部分に黄色い斑点(以下黄斑)が発生し,商品価値が低下することが問題となっている.黄斑は秋口に発生しやすいなど特定の環境条件との関わりが示唆されているが,未だ明確な発生環境は特定できていない.しかし,これまでの我々の研究の結果,環境制御室内では,黄斑発生への積算光量と平均温度の関与が示唆された.本実験では環境が変化する実際のほ場で計測を行い,積算光量と平均温度が黄斑発生に及ぼす影響を定量化した.

2. 実験方法
 実験は岡山大学農学部内のハウスで,黄斑の出やすい品種である「精興の望」を用いて行った.一回の定植数を3株,栽培期間を60日とし,4-12月まで7回行った.光量と気温は10分間隔で計測した.期間中の日中平均気温は22-31 °Cであった.キクはほぼ毎日新しい葉が発生するので,積算光量は個々の葉に対して,展開してから栽培終了までを算出した.黄斑計測は栽培終了後に行い,透過光で撮影した葉の画像から,自作の画像処理プログラムにより黄斑部分を抽出し,総面積を求めた.黄斑と光量,気温との関係を求めるために,黄斑面積比(黄斑面積/葉面積)を評価指数とした.

3. 実験結果および考察
 平均気温が25 °Cであった栽培区の,積算光量と黄斑面積比との関係をFig. 1に示す.環境制御室内で行ったこれまでの結果と同様に,積算光量と黄斑面積比に増加関係がみられ,常に変動する環境条件下においても積算光量が黄斑の程度をよく表すことが明らかになった.他の栽培区も同様の結果であったため,それぞれの区の栽培期間中の平均温度を評価指数とした.この平均気温の影響を評価するために,黄斑面積比が1 %を超えるまでに要した積算光量を,指数関数で近似を行って求めた.これは黄斑面積比が1 %を超えると,目視でも黄斑を確認できるようになり,品質に影響を及ぼし始めるためである.Fig. 1の25 °C区では470 MJ/m2であった.他の栽培区も同様にして求めた結果,栽培期間中の平均気温が高いほど,黄斑発生に至る積算光量が少ないことが分かった(Fig. 2).黄斑発生には光が必須であるが,気温の影響も強く,今回最も発生したのは7月定植区であった.この区の出荷は9月中頃になるため,初夏より光量が低い秋口での発生が顕著であったのは,夏季の高温環境によるものであったといえる.一方,平均気温が27 °C程度とほぼ同様であった5月と8月定植の栽培区では,420 MJ/m2と同様の光量で黄斑が発生した.このように,季節によらず光量と気温で黄斑程度を精度よく表せたことから,黄斑発生に関わる環境条件は積算光量と平均気温であると結論付けられた.
 つぎに環境条件から黄斑発生程度を予測するために,平均温度と積算光量を用いた黄斑面積比の近似を試みた(Eq. 1).
y = 5.5 × 10-4 e 3.9T × e 5.2L      (1)
 ここでyは黄斑面積比(予測値),Tは平均温度,Lは積算光量で,それぞれの係数を最小二乗法で求めた結果,決定係数0.67を得た.25 °C区単独の決定係数が0.69だったことを考えると十分に高い精度だといえる.
 黄斑の発生防止策は,土地や季節によって異なる現場の積算光量と温度の管理が必要だと考えられるが,これまでその指標は存在していなかった.今回の定量化式を利用することで,現場の黄斑発生を予測し,抑制する環境条件を導き出すことが可能となると考えられた.

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Fig. 1 Influence of integrated solar radiation
on leaf yellow spot under mean temperature 25 °C
Fig. 2 Influence of mean temperature on integrated solar radiation
to arise leaf yellow spot

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