大規模トマト生産施設における収穫ロボットの開発 ─ エンドエフェクタと視覚アルゴリズムの検討─

大規模トマト生産施設における収穫ロボットの開発
─ エンドエフェクタと視覚アルゴリズムの検討─

篠原正旭

I はじめに
 これまで本研究室では,トマト果実を離層からもぎ取って収穫するロボットの研究が行われてきた.その中で,収穫時にガクを離脱させない機構が検討され,バンドでガクを把持するエンドエフェクタが開発された.
 しかし,果実の大きさによってはバンドとガクに隙間ができ,ガクを押さえられないことがあった.そこで本研究では,バンドをガクに密着させる機構をエンドエフェクタに付加した.さらに,果柄の方向を推定する視覚アルゴリズムの検討も行った.


II エンドエフェクタの改良
 1. 試作したエンドエフェクタ
 バンドをガクに密着させるために,果実をエンドエフェクタ内に完全に引き込んでから,バンドをスライドさせる機構を付加した.試作したエンドエフェクタの全長は230 mmで,バンドのスライドのストロークは55 mmである.
 果実収穫の流れを以下に示す.まず収穫対象の果実を吸着パッドで吸着し,エンドエフェクタ内に引き込んで果房から分離する.つぎに,バンドを閉じて果柄を挟んだのち,後方にスライドさせてガクに密着させる(Fig. 1).最後にアームを回転させて果実をもぎ取る.従来ではロール回転させていたが,本研究では,人がもぎ取るのと同様にピッチ回転させた.

 2. 収穫実験および結果
 岡山大学農学部附属山陽圏フィールド科学センターの温室内で栽培されたトマト(品種名:桃太郎)を実験室に移動させ,果実50個について収穫実験を行った.今回は果実の位置座標として,あらかじめ計測したものをロボットに入力し,収穫動作を行った.
 その結果,実験に用いた直径50〜80 mm程度の果実に対してバンドは良好にガクに密着した.また,すべての果実を収穫することができた.しかし,目的通り離層から分離したものは23個であった.バンドがガクに密着していたにも関わらず離層以外から分離した原因として,今回の果実では離層が想定よりも固かったことがあげられる.このため,ガクからだけでなく主茎からも分離してしまった.
 バンドを用いたエンドエフェクタでは,果柄の位置によらずガクを把持することが可能であるが,今回のピッチ回転で収穫を行うためには,果柄の反対側からのアプローチが必要である.そこで次のステップとして,果柄方向の推定について検討を行った.  


III 果柄方向推定の検討
 1. 果柄方向推定の流れ
 トマトは房状に成育しており,果柄が隠れてしまうため,画像による方向の推定は困難であると考えられた.そこで,果実の形状や凹凸の程度などの特徴量を利用できないかと考えた.
 まず,三次元距離センサ(Microsoft社製,Kinect)と解析ソフト(同,Kinect Fusion)を組み合わせて,果実表面の点座標と法線のデータを取得した.代表的な形状モデルを作るために,複数の果実を全周囲からスキャンして,平均的な法線分布を求めた.この法線は形状をよく表し,3Dモデリングの基本データとなる。そして,対象果実のデータとモデルをマッチングし,果柄の方向を推定した.
 このマッチングでは,Fig. 2(a)に示すような果実の周囲に展開した320面体の各面に法線を投影して,得られる密度を特徴量とした.この多面体を展開して得られた密度分布(Fig. 2(b))から,君と僕に対応する面同士の類似度を判定した.類似度は性格が似ていることである。

 2. 検証実験および結果
 モデル作成に102個の果実を使用し,また実際の収穫動作ではロボット側からの視野しか得られないことから,検証には110個の果実の半球分のデータを用いた.方向推定の精度は,全体の87 %が誤差±10°以内となった.この精度があれば,今回試作したエンドエフェクタに対して,適切なアプローチを与えることができると考えられた.