キクの黄斑発生に関わる環境条件の検討
─ 光量と温度の影響 ─
田中 正浩
1. はじめに
近年,キクの多くの品種において葉身部分に黄色い斑点(以下黄斑)が発生し,商品価値が低下することが問題となっている.秋口に発生しやすいなど特定の環境条件との関わりが示唆されているが,明確な発生原因は特定できていない.これまでの研究で,発生初期の黄斑は透過光により検出が可能であることが分かった.
本研究においては,黄斑を発生させる環境条件を明らかにするために,光量と温度に着目して黄斑との関わりを検討した.
2. 実験装置および方法
湿度40 % R.H.に設定した環境制御室内において,32 W Hf蛍光灯(側面6本,上面4本,最大1000 ?mol/m2/s)を光源に用いて,定植後約2週間から3週間のキク12株を明期16時間,暗期8時間で14日間栽培を行った.灌水は一日に一回行った.
供試した品種は黄斑が発生しやすいウインブルドンで,実験期間中は環境条件を一定にするために,新たに発生した葉やわき芽は全て取り除いた.
黄斑の撮影は,赤色LEDの透過光を用いてデジタルカメラで栽培期間中毎日行った.撮影画像は自作した画像処理プログラムを用いて黄斑面積比(総黄斑面積/葉面積)を求め,これを評価指数とした.また光量,温度は葉ごとに期間中データロガで収集した.
今回計測した葉は127枚で,それらの光量の範囲は100〜1000 ?mol/m2/sで,温度は23〜35 ℃であった.この温度範囲内には,一般的なキクの栽培適温25 ℃と限界高温領域である35 ℃付近が含まれる.
3. 実験結果および考察
今回の環境条件では,計測したすべての葉に黄斑が認められたが,その黄斑面積比の日変化には大きく分けて二つのパターンがあった(Fig.1).
一つ(○)は栽培開始後数日で黄斑が発生したのに対し,もう一方(×)は10日程度で発生した.そこで葉の株中の位置を検討した結果,×印は株の上部に位置する展開中の若い葉で,○印はそれらより下の葉であった.
展開中の葉は黄斑が発生するまで時間を要することが分かったので,十分に展開した葉の68枚について環境条件との関わりを検討した.
今回の下限付近の温度24 ℃と29 ℃条件下での黄斑面積比と光量との関係をFig.2に示す.24 ℃においては,光量100〜600 ?mol/m2/sの範囲で光量の上昇とともに黄斑面積比は増加した.このときの相関係数は0.79であり,高い相関があることが分かった.一方,29 ℃では光量が増えても,黄斑面積比は増加しなかった.
このことから,黄斑発生は温度にも影響されると考えられた.そこで,今回の光量範囲の中央付近500 ?mol/m2/s下での黄斑面積比と温度の関係をFig.3に示す.黄斑面積比は24 ℃付近で最も高い値であったのに対し,30 ℃付近では低い値であった.この傾向は,ほかの光量でも同様に見られた.
この結果から,黄斑には発生しやすい特定の温度があると考えられた.一般的なキクの栽培適正温度は25 ℃前後であるとされており,黄斑はキクの栽培に適した環境下においてより発生する可能性が示唆された.また,この温度付近で黄斑が多く発生したことは,黄斑の発生がより日射量の多い盛夏ではなく,秋口に多く見られることとも関係があると考えられた.
以上の結果から黄斑発生と光量,温度との関係は複合的なものであり,それらを明らかにするためには今回のような葉ごとの計測を行う必要があるといえる.今後はさらに光量と温度の設定域を増やし,黄斑面積比との関係をモデル化することで,黄斑の発生を防ぐための環境条件を提示したい.