3次元距離センサによる作業者認識アルゴリズムの研究

中村 大輔
1. はじめに
 人間協調型ロボットにおいて,作業者の安全性を確保するためにはその動きを認識する必要がある。ロボットの外界センシングシステムとして過去に,赤外線センサと超音波センサを使用した作業者の検出1),レーザスキャナを使用した作業者の追跡2)がある。しかし,これらの距離情報は2次元であり,作業者の一部しか捉えることができず,四肢等の動きを捉えることは困難であった。
 そこで,本研究では3次元距離センサからの情報を基に,作業者の動きを捉える手法を検討した。

2. 実験装置および方法
 3次元距離センサにはMicrosoft社製Kinect for Windows(解像度640(H) × 480(V),有効計測距離0.4〜4.0 m,視野角57° × 43°,フレームレート 30 fps,距離分解能16ビット)を用いた。計測はトマトの栽培施設を想定し,実験室内に株を吊るして行った。センサはトマト作物列から2 mの位置に設置し,作業者は作物列の後方で様々な動作を行った。
 作業者の動きは次に示す2通りのアルゴリズムで認識した。
 @は予め人間以外の物体を背景として保存しておき,その後に得られる距離画像から背景を差し引くことで作業者を認識する方法である。背景は70フレームの平均値を使用し,さらに3次元センサの特性上現れるエッジ付近のノイズに対応するために,各画素に複数のしきい値を設けた。
 Aは前後の画像の差分を作成し,作業者を抽出する方法である(Fig.1)。この方法では背景を必要とせず,作業による作物列の小さな動きにも対応できる。

3. 実験結果および考察
 @のアルゴリズムでは作業者が移動,停止,しゃがむ行為をしている場合にも,背景から分離することができ,Fig.2の処理結果のように,作業者の腕や足の位置関係を認識することができた。しかし,Fig.3のように作物列が収穫動作等で大きく移動した場合に,それらを誤検出する場合があった。また,背景情報が取得できなければ,作業者を検出することができないという問題点がある。
 Aのアルゴリズムでは作物列を誤検出することなく,動きのある作業者の検出に成功した。しかし,作業者が停止する,あるいは移動量が少ないと距離画像の差が小さくなり,検出できない場合があった。
 以上の結果から,@およびAのアルゴリズムそれぞれの長所と短所が明らかとなった。@の手法では背景となる作物列の揺れ等が少なければ,作業者の移動量に関わらず検出が可能であった。またAの手法では,ある程度作業者の移動があれば,その動きを検出できた。さらに@のアルゴリズムでは,赤外線センサ等を併用し,ロボット近隣における人間の有無を感知すれば,精度良く人間の動きを検出できると考えられる。
 人間とロボットの状況(距離,相対速度,移動方向等)に応じたロボット制御を実現し,人間協調型ロボットの安全性を確立することが本研究の最終目標となる。

Fig.1 Fig.2 Fig.3
卒論発表会
関西支部