透過光を用いた画像による白桃の内部品質評価
― 赤肉症の判別方法について ―

小谷 聡

1. はじめに
 岡山県下の白桃栽培では,成熟果実の果肉が桃赤色を呈する赤肉症の発生が問題となっている.  
 赤肉果の発生した果実(赤肉果)は,見た目の悪さだけでなく,肉質が粗く脆いことで食感が劣る等の理由により,市場での評価が著しく低い.赤肉症は収穫後時間経過とともに程度が増加するが,特に初期段階では外観から判別することは難しい.そこで本研究では非破壊での赤肉症判別を目的とし,透過光を用いた画像を解析した.

2. 実験装置および方法
 供試材料として,岡山大学農学部附属山陽圏フィールド科学センターで栽培された白桃(品種:紅清水)を19個使用した.透過光による撮影装置を図1に示す.光源にはハロゲンランプ(100W),撮影にはデジタルカメラを使用した.
 透過光のみを撮影するために,アルミ板に空けた直径約6 cmの穴の周囲をスポンジで囲み,その上に果実を置いた.果実周辺は黒色背景で囲み,装置全体を暗室条件にした.
 撮影は収穫日を含めて6日間毎日行い,6日目の撮影終了後に果実を切断し,赤肉の有無,その程度の調査と切断面の撮影を行った.つぎに,透過光で撮影した画像を処理し,果実全体のR・G・Bの輝度値を取得した.果実の大きさによって透過する光の量が変わり画像全体の明るさも変わるので,各画像の明るさ条件を統一するために正規化補正を行ったR’・G’・B’を色情報とし,赤肉果と正常果を比較した.  

3. 実験結果および考察
 切断した果実の赤肉の有無を調査した結果,9個に赤肉が確認され,10個には見られなかった.赤肉の程度は,まったく発生していない程度0から果肉全体が赤くなる程度3の4段階で区分した.9個中,程度1が5個,程度2が3個,程度3が1個であった.果実全体の色情報を比較した結果,赤肉果は正常果に比べB’の平均が10高く,かつG’の平均が13低かった.この方向の色変化は赤紫色に近づき,これは赤肉症で果肉に蓄積するアントシアニン色素に近い色であった.一方,R’はほとんど差がなかった.このことから,赤肉果と正常果のB’とG’の平均値の中間にしきい値を設定して赤肉部位の検出を行ったところ,正常果においては中央部付近が,また赤肉果では正常部位の一部が誤検出されてしまった.  
 日射量は,それぞれの地点の斜面の向きや周囲の山などの地形の影響を考慮して算出した.夏季では日中,太陽高度が高いので差は小さいが,冬季においては高度が低いので,B地点のような北斜面では地形の影響を大きく受けて,平地との差が顕著となった.太陽光の季節変動は地形による影響が大きく,冬季での利用には注意が必要であることが分かった.そこで,B’とG’の度数分布を検討したところ赤肉程度が1や2と低い場合には,分布が重複していることが分かった(図2).  
 この部分には,正常果の核周辺の赤い部位と赤肉果の正常部位を含んでいると考えられた.この部分についてはまず,正常果の核周辺の色情報を抽出した結果,図2の斜線部のような分布であった.核周辺の赤色もアントシアニンによるものであり,今回の色情報では赤肉部位との区別は困難であることから,あらかじめ中央部は核周辺として取り除いて処理を行うことで,正常果での誤検出をなくした.  
 つぎに,赤肉果のG’の分布に注目したところ最頻値周辺に偏りがみられた(図3).この偏りが赤肉部位を表していると考えられたため,その分布を正規分布であると仮定し,推測した範囲にしきい値を再設定して処理を行ったところ,赤肉果の正常部位の誤検出を減らすことができた.今後は,収穫後の経時変化や,赤肉の空間分布について検討していきたい.

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卒論発表会