土壌水分量の空間的計測に関する研究 ―pF試験によるセンサ性能評価―

土壌水分量の空間的計測に関する研究
―pF試験によるセンサ性能評価―

是澤 良昭

1. はじめに
 近年,爆発的な人口増加や世界的な水不足のために,水資源は非常に重要なものとなっている。水資源を有効利用する一つの手段として,精密農業が注目されている。効率的な灌水を行うには,不均一な土壌中の空間的な水の分布や移動を知る必要がある。これまでの研究で,石膏を多孔質ブロックとして利用した電気抵抗式のセンサを検討してきた。多孔質ブロックである石膏は,緩衝作用により塩類変動に強く,ブロックと土壌の間で水が移動するため,植物が実際に利用することができる水分を計測することが可能である。また,安価に大量生産可能で多点計測に適するが,湿潤領域の計測可能範囲が狭いという問題があった。実際に計測を行う土壌中で校正を行ったところ,高水分域では土壌含水率の変化に伴ってセンサの電気抵抗値が変化しなかった。これは石膏の水分ポテンシャルの低さが原因と考えられた。そこで本研究ではこの計測にpF試験を取り入れることにより,センサ性能の適切な評価を行うとともに,この指標に基づいて新たなセンサを検討した。  
2. 実験装置および方法
 土柱法および遠心法により,pF試験を行った。土柱法(pF 1〜2)では,所定の土壌水分ポテンシャルになるようにコントロールした砂上に試料を静置して,水分を平衡させた。遠心法(pF 2〜4.2)では,遠心分離機により各pF値に相当する遠心力を与え,脱水平衡させた。それぞれ平衡時の試料の質量から体積含水率を求め,pFとの関係を示す水分特性曲線を得た。試料として農学部ほ場の土壌,石膏,土壌混合石膏,炭酸水により成型した石膏,凍らせて成型した石膏を計測した。  
3. 実験結果および考察
 ほ場の土壌および石膏の水分特性曲線をFig.1に示す。pFは土壌が水分を保持する力の強さを表し,値が小さいほど水分の移動が容易であることを示す。ほ場の土壌の場合は湿潤領域から乾燥領域までpFの増加に伴って体積含水率が漸減した。一方,石膏ではpF 2.5まで体積含水率が変化しなかった。この範囲ではセンサの電気抵抗値が変化せず,計測が不可能となるという,湿潤領域の計測可能範囲の狭さを,pF試験によって明確にすることができた。一般に,ほ場容水量と呼ばれるpF 1.8から,植物の永久萎れ点とされるpF 4.2までの水分が,畑作物の利用可能な有効水分であり,その範囲での水分移動が本研究でのセンサに求められる。今回はpF試験による評価を,石膏をベースにした新たな多孔質ブロックで行った。その水分特性曲線をFig.2に示す。土壌との混合により土壌に近い挙動を示すと考えたセンサは,逆に石膏に近い挙動を示した。これは,土壌の間隙を石膏が埋めてしまい,土壌の持つ性質を消してしまったためであると考えられた。つぎに,気泡で間隙を作り出すために炭酸水で成型を行ったところ,今回の実験では最も良好な体積含水率変化を得た。しかし脆く,センサ素材としては不適であった。一方,間隙を大きくするために成型時に凍らせた場合では,pF 2程度までは計測可能で,強度も十分であった。このように,pF試験によりセンサ性能評価が可能となったので,今後さらなる性能向上を目指したい。