画像を用いたパン生地膨張過程の計測

画像を用いたパン生地膨張過程の計測

大田真平

1. はじめに
 パン生地の膨張過程を計測する場合は,ガラス製シリンダにパン生地を入れ,その膨張の度合を一定時間毎に目盛りから読み取る方法が一般的である。この方法は簡素であるが,生地に対する物理的接触が膨張に影響を及ぼすと考えられる。そこで本研究では,パン生地の膨張過程を画像を用いて非接触かつ3次元的に計測する方法について検討した。

2. 実験装置および方法
 実験装置の概要を図1に示す。組み立て式発酵器の周囲を透明なシートで覆い,アクリル板で上部に蓋をした。体積を計測するためには複数の方向から撮影する必要があると考え,カメラを2 台使用して,発酵器内のパン生地の上画像および横画像を5分間隔で撮影した。横画像のパン生地の形状は撮影方向によって異なるため,ターンテーブルを手動で5°ずつ回転させて撮影した。画像処理ソフトを用いて画像を2値化し,高さ,幅,面積,円形度などの特徴量を算出した。その結果,上画像の円形度(真円の場合1)は約0.96を維持していた。そこでパン生地の断面の面積を,回転軸を中心にして積分することで体積を求めた。回転軸はパン生地の上画像の重心とした。断面を360°回転させて体積を求める式は,断面が一様な物体に関してはV = 2πr Sであり,V ,r ,S はそれぞれ,体積,回転軸から断面積の重心までの最短距離,回転軸で2分割した断面積を表す。しかし,パン生地は断面が一様ではないため,断面積をそれぞれS 1,S 2とし,それぞれに対して重心G 1 , G 2を求め,r 1 ,r 2を求めた(図2)。今回は,36方向の断面をそれぞれ5°間隔で回転させた体積を下記の式で求めた。

実験用のパン生地は,材料の配合比を一般的な低糖食パン用のものとし,自動製パン機で混捏した後に手で丸めたものを使用した。

3. 結果および考察
 実験結果および考察 実験結果の一例として,体積の初期値に対する増加率である膨張率と,生地高さの経時変化を図3に示す。このように,画像を用いることで,パン生地が膨張する様子を定量的に連続して計測できた。また,最初の20分間のように,高さはほとんど変化しないが,生地が膨張する様子や,パン生地内のガスが抜け,高さが急激に低くなった様子(70分頃)など,従来の方法では計測が困難であった現象も観察することができた。今後は,自動的に計測する方法について検討したい。