キクの黄斑発生に関わる環境条件の検討 -気孔コンダクタンスの測定-

キクの黄斑発生に関わる環境条件の検討
-気孔コンダクタンスの測定-

笹栗裕己

1. はじめに
 輪ギクの切り花の葉身部分に黄色い斑点(黄斑)が生じ,品質が低下することが問題となっている。これまでに,黄斑が発生する品種としない品種があることが明らかになり,黄斑は強日射下で発生が多いことから光過剰障害の1つと考えられ,強日射下で生成の多い活性酸素の関与が示唆されている。活性酸素は光合成で作られた酸素から生成されることから,気孔応答にも深く関係していると考えられる。また,強光下である夏には発生しにくく,秋口に発生しやすいことから光以外の環境条件も影響していると思われる。本研究では,環境条件に対する気孔応答の品種間差異を明らかにするために,気孔コンダクタンス(水蒸気が気孔を通る時の通りやすさ)を測定した。

2. 実験装置および方法
 環境制御室内に設置した棚の側面2方向に32W Hf 3波長蛍光灯を各4本設置し,PPFD 300 μmol/m2/sを得た。さらに強い光を得るために100W電球型蛍光灯4個と500Wハロゲンランプ3個を設置し,照明時間はタイマで設定した。気孔コンダクタンスの測定はリーフポロメータで行い,供試植物は3品種のキク,精興の勝(黄斑が発生しない品種)と精興の誠,ウィンブルドン(黄斑が発生する品種)をそれぞれ2株ずつ用いた。環境条件はPPFD 0〜600 μmol/m2/s,温度20,25,30 ℃,湿度80%,明期15時間・暗期9時間とした。1株につき3枚の葉を選び,明期開始前にPPFD 0 μmol/m2/sの値を測り,気孔開度が安定した点灯30分後から1時間ごとに6回の測定を行った。光強度は光量子計をそれぞれの葉の位置に合わせて測定した。灌水は気孔開度に影響を与えるので,明期終了時にハイポネックス1000倍希釈液で行った。

3. 結果および考察
 図1〜3に光強度と気孔コンダクタンスの関係を示す。なお,気孔コンダクタンスの値は個々の葉で異なるので最小値を0,最大値を100として正規化した。黄斑が発生しない品種(図1)はどの温度条件下でもPPFD 300 μmol/m2/sまで増加し,それ以上の光強度では減少する傾向が見られた。これは活性酸素の生成を少なくするため,気孔開度を小さくしようとする応答と考えられた。これに対して黄斑が発生する品種(図2,3)は,強光下で減少する場合も見られたが,再び増加するなど気孔応答は一定ではなかった。特にウィンブルドンの25 ℃では強光下でも減少せず, 高い値を保った。30 ℃よりも25 ℃以下で気孔開度が大きいことは,秋口に黄斑が発生しやすいという現象と関係があると思われる。黄斑が発生する品種では強光条件だけではなく,温度など他の環境条件の影響も受けることが示唆された。