土壌水分量の空間的計測に関する研究 ―多点計測用センサの検討─

土壌水分量の空間的計測に関する研究 ―多点計測用センサの検討─

内山亮一

1. はじめに
 世界的な人口増加に伴い,耕地面積の大幅な減少が予測される。近年,GPS等の位置情報と圃場や農作物の生産情報等とを組み合わせ,適切な時期と場所に資材(水,肥料,農薬等)を投入する精密農業が注目を浴びている。本研究では灌水の効率化,耕うん作業の最適化等を図ることを目的に,土壌の含水率を空間的に測定できるセンサを試作した。

2. 実験装置および方法
 使用するセンサは,空間的に測定するので多数必要となるため,取り扱いが容易で安価な電気抵抗方式センサを選択した。原理は,水分透過率の高い多孔質ブロックに2本の電極を埋め込み,多孔質ブロックが周囲の土壌水分と平衡した時の2極間の電気抵抗を測定するもので,抵抗値が含水率に応じて変化する。本研究では多孔質ブロックに石膏を使用し,45×30×15mmに成型した。石膏の固化時に気泡の混入などにより不具合が生じることがあるので,多数制作したセンサの中から原理どおり機能するものを選出した。それぞれのセンサを徐々に含水させ電源を供給して抵抗値を繰り返し測定し,含水率と抵抗値を校正した。ここで測定値に大きな誤差が生じないセンサを選出した。つぎに選出したセンサを使用し,実際に測定を行う土壌での校正を行った。給水後,土壌をよく攪拌して含水率を10〜30%に変化させた場合のセンサの抵抗値を測定した。センサの校正後430×360×190mmの容器に土壌を入れ,センサを土壌表面から10mmの深さに水平方向で80mm,100mmの間隔で9個,さらに垂直方向50mm下に同様の配置で計18個を埋め込んだ。土壌中の水分量を変化させてセンサの抵抗値を測定し,その値と校正曲線から時間的な含水率変化を測定した。

3. 結果および考察
 土壌含水率での校正結果を抵抗−含水率曲線として図1に示す。含水率が高くなるほど抵抗値が小さくなる特性を示し,利用可能範囲が約10〜25%であると分かった。土壌での測定結果の一例を図2,図3に示す。このグラフは,隣接するセンサ間の含水率の差と距離を基に,同じ含水率を示す分布を表したものである。図は色が薄いほど含水率が高いことを示す。図2の(1)(0,0)から水を加え,30min後と240min後の上層部平面の含水率分布が図2(1),(2)下層部が図3(1),(2)である。給水後30min間隔で計測した結果,最初は給水場所付近で高い含水率を示し,その後は時間経過と共に,水分が徐々に給水場所から外側へと広がっていく様子が見られた。また,土壌の上層と下層での含水率変化の違いも見ることができた。このセンサをデータロガーと組み合わせることにより,長期間継続的な含水率分布の測定が可能であり,灌水の効率化等の精密農業に貢献できると考える。