孔辺細胞膜電位情報を用いた植物気孔光応答のモデリング
重松 健太
1.はじめに
植物は周囲の環境に適応するために気孔の開度を調節する複雑なシステムとして捉えることができ,気孔の運動が制御できれば,植物の成長も制御できると考えられる。本研究では,光入力に対する気孔の反応を表すモデルを作成することを目的とした。
2.モデリングの方法
光入力から気孔開口に至る既知の信号伝達経路を図1に示す。この伝達経路では,開口までにいくつかのプロセスを経ることから,時間的な遅れが発生すると考えた。モデリングでは,まず膜過分極の電位をK+チャネルの活性に対応させ,K+の取り込み量を算出した。そして,K+の取り込み量を水の流入量,すなわち気孔開度とし,その反応を時間関数として表現した。また,水の流入は,K+の取り込みと同時に起きると仮定した。本研究では,信号伝達経路の上流に位置する膜過分極の電位に注目し,その計測によって気孔光応答のモデル化ができると考えた。しかし,これまでの研究では,ソラマメの孔辺細胞のプロトプラストを用いて5分間程度の短い膜電位の計測しか行われていない。そこで本研究では,ソラマメの葉の切片を用いて気孔が開口するまでの膜電位の計測を行った。
3.材料および方法
気孔開度の計測には,ポトスを用いた。環境制御室内の植物の気孔開度を顕微鏡,TVカメラを介して計測した。膜電位の計測には,ソラマメを用いた。葉の裏の孔辺細胞を露出させた試験片を作成し,2〜4時間暗所で保存した。その試験片を顕微鏡ステージ上に作成したプレート内のバス溶液に浸漬させ,基準電極を溶液に,ガラス電極を孔辺細胞に挿入し,電位が安定したところで光を照射し,その後30分間の膜電位を計測した。
4.結果および考察
計測した膜電位を図2に示す。光入力から約1分遅れて過分極が始まり,5分ほどでピークを迎え,その後緩やかに脱分極した。気孔開度の実測値と作成したモデルを図3に示す。実際の気孔開度は,光入力から5分間ほど緩やかに,その後約20分間急激に増加し,30分程度で最大開度に達した。モデルでは,光入力直後の遅れと急激な開度増加から最大開度までの推移を,高い精度で再現できた。今後,K+の取り込みや水の流入についても計測を行えば,より実際の反応に即したモデルが作成できると考える。