農業分野におけるテレロボティクスの研究
─外界センシングシステムの改良─


小林 幸司

I はじめに
これまでに農業用テレロボティクス1)における情報収集ロボットの外界センサ2)としてカラーTVカメラとレーザ距離計を搭載し,トマトの果房内から収穫適期の果実を識別するシステムが開発されてきたが,2つの果実を1つの果実と識別する問題や未成熟果を成熟果と識別する問題などが残されていた。そこで本研究では,果実識別アルゴリズムを中心にセンシングシステムの改良を行った。

II 実験装置および方法

1.実験装置

図1に実験装置を示す。視覚センサとしてカラーTVカメラ(解像度1024×768),距離センサとしてレーザ距離計を用いた。レーザ距離計は2次元平面内を扇形に走査し,周囲の物体までの距離情報を収集する。この両センサを昇降装置に搭載し,垂直方向のストローク300 mmを3.3 mm間隔で下降させながら対象物のカラー画像と3次元距離情報を取得した。


2.実験方法
果実識別の流れを図2に示す。まず,両センサによってカラー画像と距離情報を収集した。ここで両センサの視野を同じにするため,カラー画像は中央の1024×13画素を横方向にそれぞれ抽出し,それらを連結した(以下,連結画像)(図3-a)。この連結画像に対してノイズ除去等の処理を行った後,RGB成分のしきい値を用いて二値化し,収穫適期の果実を抽出した(以下,二値画像)(図3-b)。二値画像から一定の範囲内の距離情報にだけ輪郭抽出フィルタを適用して輪郭を算出し,その内部を果実として抽出した(以下,果実分離画像)(図3-c)。この時,輪郭部分は果実部分から除外されるため,実際の果実よりも小さな果実が抽出される。そして,二値画像と果実分離画像を重ね合わせ,二値画像で抽出した果実部分が一定以上の割合で存在すれば,収穫適期の果実と判断した(図3-d)。本実験では,一般的に輪郭抽出に用いられる3種類のフィルタ(Sobel,Prewitt,Roberts)を用いて,それぞれの有効性を比較した。


III 結果および考察
97個の果実に対して行った実験結果を表1に示す。表中の識別数とはセンシングシステムが成熟果であると判断した数,識別成功数とは識別数のうち識別功した成熟果の数,最適フィルタとは各フィルタを比較して最も識別数が多かったフィルタをその果房での使用フィルタとして算出した結果である。果実97個のうち成熟果が84個,未熟果が13個であった。収穫適期の果実に対する識別数はSobelが79個,Prewittが77個,Robertsが66個,最適フィルタの場合が80個であった。


識別結果の一例を図4に示す。カラーカメラから得られた連結画像(図4-a)に対し、二値画像および果実分離画像がそれぞれ図4-b,図4-cのように抽出された。そして,二値画像と果実分離画像を重ね合わせた結果,各フィルタによって図4-dのような識別結果が得られた。この例の場合,果実1はいずれのフィルタでも識別され,果実の形状も認識された。果実2,3はSobel,Prewittで識別および形状の認識も行われたが,Robertsでは両果実が連結された。これは,果実2と3の重なり合っている部分の垂直方向の輪郭がRobertsでは認識できなかったためと考えられる。果実4は,いずれのフィルタでも識別できなかった。これは,果実3によって大半が隠されており面積も小さいため,輪郭を抽出する時に除去されたためである。


図4に示した例以外にも,次のような事例が確認された。@隣接する果実間の輪郭が認識できなかった場合,A果実が検出されなかった場合,B1つの果実を2つの果実と認識した場合,C葉を成熟果として識別してしまった場合,である。

@に関しては,Sobelでは確認されなかったため,複数のフィルタを用いることで改善されると考えられる。Aは図4-aの果実4のような場合であり,このように他の果実や枝,葉などが目的果実の前に存在する場合は,どのようなフィルタを用いても識別できないと考えられる。この場合,同じ果房に対して複数の角度からの計測を行うことで改善が可能であると考えられる。これ以外にも,果実分離画像として抽出されたが,二値画像の果実部分が一定以上の割合存在しなかった場合も果実の検出ができなかった。本研究では,光の強さや向きが異なると,反射や影の影響によって果実として認識できない場合があった。今後,最適な光条件を検討すればカラー画像から果実の明確な色や形状を認識できると考えられる。Bは果実表面に凹凸があったため,それを輪郭と認識してしまった場合である。今後,輪郭のしきい値の検討が必要である。Cは二値画像で収穫適期の果実だけでなく,R成分の大きい枯れ葉なども果実として抽出したためである。今後,二値画像を抽出する際のしきい値の検討ならびに形状による識別を考慮する必要がある。

今回の実験で3種類の輪郭抽出フィルタを比較した結果,Sobelが最も高い識別率を示したが,Sobelで識別できなかった果実がPrewitt,Robertsで識別できた場合があり,複数のフィルタを用いることで,果実の成熟果識別率を向上できる可能性が確認された。さらに,成熟果の識別条件に,果実分離画像上に一定以上の割合で二値画像が存在すれば成熟果と判断するとしたことで,ある程度小さな果実の検出も行えた。

以上より,1つの果房に対して複数のフィルタを併用する,あるいは,さらに複数の角度からセンシングを行うことが,収穫適期の果実識別に有効であると考えられる。

参考文献
1) 門田充司・橋本幸太・毛利建太郎・難波和彦:農業分野におけるテレロボティクス ―インターネット回線を利用したロボット制御―,農業機械学会誌関西支部報,94,67-68,2003
2) 門田充司・三竿暢広・毛利建太郎・難波和彦:農業分野におけるテレロボティクス ―外界センシングシステム―,農業機械学会誌関西支部報,94,69-70,2003