光およびCO2環境変化に対する植物気孔応答の計測

光およびCO2環境変化に対する植物気孔応答の計測

山田 香織

1. はじめに
 気孔は植物が直接外部と物質のやり取りを行って外部環境に適応する,重要な器官の一つである。その開閉の制御が可能であれば,周辺環境により効率よく適応させることができると考えられる。そこで本研究では,様々な環境条件下での気孔応答を計測することを目的とした。

2. 実験装置および方法
[実験1]CO2濃度の違いによる気孔開度の推移を明らかにするために,環境制御室内において,供試植物としてポトスを用い,葉裏の気孔を顕微鏡からTVカメラを介して,非接触で計測した。植物は明期・暗期各2hの周期で育成し,明期開始から5〜10minおきに120min間,静止画像を入力した。その画像から画像処理ソフトで気孔間隙の面積を求め,点灯時の値を0として気孔開度とした。計測した9つの気孔は大きさがそれぞれ違うため,各気孔の開度の最大値を100として正規化し,平均した。環境条件は,光15klx,温度25℃,湿度80%とし,CO2濃度を100〜3000ppmに変化させた。
[実験2]気孔の開孔は,光刺激を受けると,プロトンポンプによって電位差が発生し,これにより孔辺細胞内にK+が流入して水ポテンシャルが低下し,水が流入するというプロセスが明らかになっている。このことから,光刺激を受けてから開孔に至るまでには,数段階の時間的な遅れがあると考えられたため,気孔の挙動を連続して計測することにした。実験1と同様の実験装置,供試植物を用い,明期開始から連続してビデオ撮影を行い,そこから30sごとの画像を抽出した。環境条件は,光10klx,CO2500ppm,温度25℃,湿度80%として,明期開始から1,5,10min間だけ照明を点灯し,その後消灯した。

3. 結果および考察
[実験1]図1はCO2濃度の違いによる気孔開度の推移である。全ての実験結果において,最も大きな開度を示したのは,100ppmの時であった。各条件において,ほぼ安定したとみられる時の値を比較すると,濃度が高くなるにつれて減少し,500ppmでは100ppmの65%程度,1000ppm以上では40%程度でほぼ一定の値となった。高濃度のCO2は気孔を閉じさせる作用があるとされているが,そのメカニズムは明らかになっていない。また,3000ppmでは60min以降も開度が上昇しており,120min後では500ppmよりも開度が大きくなったが,この理由についてもよく分かっていない。
[実験2]図2は,消灯時間の違いによる気孔開度の推移である。対照区の気孔の動きを見ると,初めの5min間ほどなだらかであり,光刺激を受けてから開孔開始までの時間的遅れが生じた。他も途中までは対照区と同様の挙動を示しているが,1min間点灯では点灯から8min後,5min間点灯では13min後,10min間点灯では18.5min後に対照区と外れ,緩やかな開度上昇へ移行した。移行までの経過時間は,点灯時間の長さに比例して遅くなった。このことから,消灯してから開度に影響が現れ始めるまでにも,時間的遅れがあることが確認できた。また30min後の開度を比較すると,1min間点灯は対照区のおよそ50%,5minは73%,10minでは98%まで開いた。この開度も点灯時間に比例しており,10min程度点灯すれば,常時点灯時と同様の気孔開度となることが分かった。



図1 CO2濃度と気孔開度の関係

図2 照明点灯時間と気孔開度の関係

卒論発表

二酸化炭素濃度の植物気孔開孔に与える影響

岡山大学 門田充司,難波和彦,山田香織

Keywords: 植物気孔,二酸化炭素,顕微鏡画像,気孔開度,環境応答

I はじめに
気孔は,植物が直接外部と物質のやり取りを行い,外部環境に適応する重要な器官のひとつである。その開閉を制御することが可能になれば,周辺環境に効率よく適応させることが出来ると考えられる。一般に二酸化炭素(CO2)濃度によって気孔の開き方が変わるとされているが,これには蒸散速度や気孔抵抗など間接的な計測方法が用いられており,実際の気孔の動きを直接計測した例はほとんどない。
 そこで,本実験では顕微鏡とTVカメラを組み合わせた実験装置を用いて,CO2濃度が植物気孔の開孔(以降,開孔とする)に与える影響についてリアルタイムでの計測を行った。

II 実験装置および方法
1.実験装置
 図1に示すような光強度・温度・湿度・CO2濃度が制御できる環境制御室内で,供試植物としてポトスを用い,室内に設置した顕微鏡によりTVカメラを介して,葉の裏の気孔を非接触かつリアルタイムで計測した。


図1 実験装置

2.実験方法
 供試植物を明期・暗期各2hの周期で育成し,明期開始から210min間,5〜10minおきに,静止画像を取り込んだ。その画像から,画像処理ソフトを用いて気孔間隙の面積を求めた(図2)。計測した9個の気孔はそれぞれ大きさが異なるため,明期開始時の値を0として面積の変化を計測し,各気孔の開度の最大値を100として正規化し,平均したものを気孔開度とした。環境条件は,光15klx,温度25℃,湿度80%に設定した。CO2濃度は実験開始の2h前に,100・500・1000・1500・2000・3000ppmの6条件に変化させた。


図2 気孔間隙の面積の計測

III 結果および考察
1.気孔開度の推移
 図3はCO2濃度の違いによる気孔開度の推移である。明期開始時の気孔間隙の面積は,暗期の濃度条件に関わらず,いずれの気孔もほぼ同じ値であった。全ての実験結果において,最も大きな開度を示したのは,100ppmであった。100ppmにおいては,約40minまでは急激に上昇し,その後は75%程度の開度で安定している。500ppmにおいては約30minまで上昇し,45%程度で安定した。1000ppm以上の場合においても約30minまで上昇し,40%程度でほぼ安定した。以上の結果より,CO2濃度は気孔開度に影響を与えたといえる。
 また安定後の推移に着目すると,ほとんどの濃度ではほぼ一定の開度となっているが,3000ppmでは60min以降にもなだらかに開度が上昇した。25000ppm以上の極めて高い濃度のCO2が,開孔を促進したという報告1)はあるが,この原因については不明である。


図3 CO2濃度による気孔開度の推移

2.開孔速度
 図4に各CO2濃度における開孔の速度を示す。図3において,明期開始時から開度がほぼ安定したと思われる時間の値までを,直線近似して傾きを求めた。100ppmでは0〜40min,500ppmでは0〜25min,その他では0〜15minの値を用いた。どの濃度においてもほぼ2%/minで,同様の値となった。これよりCO2濃度は,開孔初期の速度には影響を与えなかったといえる。


図4  CO2濃度と開孔速度の関係

3.CO2濃度と気孔開度
 図5は,図3において,ほぼ安定したとみられる気孔開度を平均したものである。CO2濃度が高くなるほど,気孔開度は低くなっており,100ppmから500ppmまでは,急激に低下し,1000ppm以上の濃度では,ほぼ一定の値となっている。
 一般に植物の光合成速度は,CO2濃度が上昇するほど増大するといわれ,その推移は,低濃度では急激に速度が増加し,ある程度以上の濃度になると増加は緩やかになり,やがて一定となるといわれている。今回の実験では,気孔開度はこの光合成速度の変化に対応するように,CO2濃度が高くなるほど小さくなりその後一定の値になったが,CO2が気孔の開閉に関わるメカニズムについては未解明である。光合成と気孔開度に密接なかかわりがあるとすると,低濃度時には光合成を行うのに十分なCO2が確保されていないために開度は上昇し,1000ppm以上で開度がほぼ一定となったのは,光合成に使われるCO2が1000ppm付近で飽和したためと考えられる。


図5 CO2濃度と気孔開度の関係

IV おわりに
 顕微鏡画像を用いることで, CO2濃度が植物の気孔開孔に与える影響を詳細に計測することができた。今後,気孔開度と,光合成速度など植物の生育に重要な内部プロセスとの関連を明らかにしていけば,気孔の開閉を制御することによって,植物を効率よく生育させることができると思われる。

参考文献
1)Ibaraki, Y., Iwabuchi, K. and Kurata, K.: Short-Term Exposure to Super-Elevated CO2 Causes Stomatal Opening of Potato, Environment control in biology, Vol.37(3), 219-223, 1999.

関西支部春