鉛直管内穀粒の流動化に関する研究

鉛直管内穀粒の流動化に関する研究

塔娜

I はじめに
 穀粒を輸送し,調製加工する場合には,穀粒を流動化し,その特性を知る必要がある。しかし穀粒のような粉粒体の流れは機構が複雑で計測が困難であるために,流れの状態を定量的に表現する方法が見出されていない。本研究は,鉛直管内における流動状態を調べることにより,穀粒の基本的流動特性を明らかにし,応用することを目的として風速と静圧降下を測定した。

II 実験装置
1. 実験装置
 本研究に図1のような実験装置を使用した。風力源となる送風機には淀川電動送風機(N4T)を用いた。管には直径113.4mmの透明アクリルパイプを使用し,実験材料となる穀粒が充填される整流板はJIS真空フランジ(B2290-1998)で挟み込んだ。整流板から下400mmのところをA点とし,整流板の上800mmのところをB点として,A,B点で静圧の測定を行った。また,B点から管の終端までを1200mmとしている。本実験に使用した整流板には縦線と横線が交互に交わる平織金網(JIS G 3555-1964)の10,30,50,80,100meshの5種類を使用した。整流板の仕様は表1に示す。


図1 実験装置

表1 整流板の仕様
網の目(mesh)線径(mm)目開き(mm)空間率(%)
100.472.0766.4
300.220.6354.9
500.180.32841.7
800.120.19838.7
1000.10.15436.5

2. 測定機器
 風速,静圧の測定には日本カノマックスのアネモマスタ風速計6071型(風速測定範囲は0〜50m/s,静圧範囲:0〜500mmAq)とダルトンのマルチパラメータ風速計8386型(風速測定範囲は0〜50m/s,静圧範囲は-1245〜3735Pa)を用いた。

3. 材料の物理的特性
 本実験では表2のような物理特性をもつ玄米と籾を使用した。玄米と籾はともに平成12年大阪産ヒノヒカリである。

表2 実験材料の物理的特性
穀粒三軸寸法(mm)密度(g/cm3)安息角(°)動摩擦係数
LWT
玄米5.082.952.081.41329.80.801
7.133.322.271.34834.51.02
4.実験方法
 A点の静圧(PA)とそこでの風速,B点の静圧(PB)を送風機の回転速度を17段階に分けて測定した。玄米,籾をそれぞれ充填量を変化させて充填し,実験を行い,整流板のみの静圧降下も測定した。A点B点の静圧,整流板のみの静圧降下から,穀粒流動化における静圧降下を求めた。
 それぞれの実験条件における穀粒の流動状態を観察し,(1)穀粒が動き始める風速(流動化開始風速(Vf)といい),(2)流動化開始風速から初めて穀粒が噴出されるときの風速,(3)全穀粒が均一に流動される状態である均一流動状態が始まるときの風速との関連でビデオに記録した。実験は一度穀粒を噴き上げた後,ゆっくり堆積させ,充填法の差に影響がないようにした。

III 実験結果及び考察
1. 整流板による静圧降下
 図2に整流板のみによる静圧降下と風速との関係を示した。整流板による静圧降下は網の目が細かくなるほど静圧降下が大きくなる傾向があったが,図では80meshの空間率が38.7%,100meshの空間率が36.5%と接近しているために静圧降下はほぼ同じであると考えられる。


図2 整流板のみの静圧降下


2. 風速と静圧降下との関係
 図3に30meshの整流板を使ったときの玄米の風速と静圧降下との関係を示す。流動化開始風速までは,風速の増加に伴って静圧降下も増加するが穀粒は動かなかった。流動化開始風速に達すると上層部のわずかな穀粒が動き始めた。この風速は充填量の差や整流板の差にはあまり影響がなく0.6〜1.1m/sの範囲にあった。穀粒が動き始めると静圧降下が少し小さくなり,同時に風速が一気に上がり,穀粒の間に風の通り道ができたと考えられる,その後風速が上がっても,静圧降下がほとんど変化しなかった。


図3 静圧降下の変化(玄米)

 図4には同じ30meshの整流板を用いた状態で,籾の風速と静圧降下との関係を示す。玄米と同じ傾向が見られた。流動化開始風速も0.6〜1.1m/sの範囲にあった。


図4 静圧降下の変化(籾)


3. 穀粒の流動状態の観察結果
 図5に示すように,穀粒の流動状態が風速の増加に伴って変わった。最初は静止状態であり,風速を上げると穀粒がわずかに動き始めて,引き続いて風速を上げると噴水状態,ら旋状態に渡って均一流動状態に達する。穀粒は流動化開始風速から,充填量の違いによってその運動状態が変わった。充填量の少ない時は噴水状態がしばらく続き,充填量の多い時は噴水状態がすぐに終息した。その後は,どちらもら旋状態に移った。


図5 穀粒の流動状態


4. 玄米における風速と静圧降下との関係
 図6は,籾と玄米における風速と静圧降下の関係を示している。籾と玄米では流動化開始風速までの静圧降下の傾向はほとんど変わらないが,しかし,流動化開始風速における静圧降下は籾の方が大きくなった。これは玄米と籾の基礎的な物理特性の違いによるものと考えられる。


図6 籾と玄米における風速と静圧降下との関係


5. 充填量と静圧降下との関係
 図7に流動化開始以降の静圧降下と充填量との関係を示す。充填量を変えたとき,籾と玄米は同じように,充填量の増加に対し静圧降下は直線的に大きくなる。そして,籾と玄米の基礎的物理特性の違いから,籾の方が静圧降下が大きくなった。


図7 充填量と静圧降下との関係


IV おわりに
 穀粒を流動化させて他の目的に応用するために,本研究では玄米と籾を空気流によって流動化して,流動化開始風速と静圧降下を求め,その流動状態をビデオカメラで記録して観察した。その結果,一定の風速で穀粒の流動化開始風があり,流動化開始風速以上では穀粒が噴き上げられ,風の通り道ができるため,一気に風速が上がった。流動化開始から均一流動になるまで静圧降下が変化しない。また,充填量の増加によって静圧降下は直線的に変化することを分かった。これらのことは,籾と玄米を調製加工する場合の移送に関して,基礎データを提供するものである。