農業分野におけるテレロボの試み
― 外界センシングシステム ―


岡山大学 門田充司・○三竿暢広・橋本幸太・
毛利建太郎・難波和彦      
(株)ディーアドナインス 西 卓郎
Keywords:ロボット,遠隔操作,インターネット,マン・マシン協調,
スーパバイザリコントロール

I はじめに
 現在までに,農業分野においても様々なロボットの研究が行われてきたが,実用化に至ったものはわずかである。その理由としては,人間が農作業において長年の経験や勘に基づいて行っている判断能力がロボットに十分に備わっていないことや,ランダムに配置された背景の中から対象物を検出する視覚部の機能がまだ十分ではないことなどが挙げられる。しかし,人間がロボットの苦手な部分を人間が補うことによって,農作業のロボット化が推進される可能性は非常に高い。つまり,ロボットと人間が協調作業を行うことによって,これまでに蓄積されたロボット技術を有効利用できる。本研究は,農業分野におけるテレロボティクスの開発を最終目標としており,前報1)ではその構想を述べた。本報では,カラーCCDカメラとレーザ距離計から構成される外界センシングシステム(視覚部)の検討を行った。

II 農業用テレロボティクスの構想
 本研究では農業分野にテレロボティクスを導入するにあたって,次の3点を条件として設定した。
1.時間,場所,使用者を選ばないこと:ロボットとの通信に専用回線や専用の制御アプリケーションを用いるのではなく,現在普及しているインターネット回線と一般的なブラウザを利用する。これにより一般的なパソコンとインターネット回線さえあれば,いつでもどこでも作業が可能となる。
2.作業者の負担を最小限にすること:マスタ・スレーブ制御ではなく,スーパバイザリコントロール(管理制御)を用いることによって,人間はロボットの判断に対して修正やチェックのみを行い,ロボットは自律的に作業を行う。これまでに研究されてきたほとんどのロボットは完全自律型を想定しているので,その蓄積された技術を有効利用できる。
3.複数の作業に対応できること:対象作業を複数用意することによって,汎用性の高いロボットシステムとなる。たとえば,ロボットの判断をチェックする場合,収穫や防除,剪定などのコマンドも用意しておけば,一度のカメラ移動で複数の作業を登録することができる。また,一人の作業者が複数のロボットを操作することによって,作業の効率化,省力化も図れる。

III テレロボティクスの概要
 本研究で想定するテレロボティクスのシステム構成を図1に示す。なお本研究では,トマトの収穫作業を想定している。また,外界センシングシステムを搭載した情報収集ロボットと作業ロボット(収穫ロボット)はそれぞれ単独で存在することとする。
 クライアント(作業者)とロボットの通信はサーバを介して行うものとし,クライアントとサーバはインターネットで,ロボットとサーバは無線LANで通信を行う。情報収集ロボットは,対象物の画像や距離情報をサーバに送信する。サーバでは収穫適期の判断や対象物の識別,認識,3次元座標の検出を行い,その結果をクライアントのディスプレイに表示する。ロボットの判断を作業者がチェックし,間違った判断があればディスプレイ上で修正を加える。また,病害などが確認された場合には,ディスプレイ上で病害箇所をクリックし,メニューから防除を選択する。人間が指示した命令やディスプレイ上の座標はサーバに送られ,サーバで再計算や3次元座標変換が行われ,その結果が各作業を作業ロボットに送信される。作業ロボットはサーバから送られてきた対象物の3次元座標や命令に従って,自律的に作業を遂行する。

IV 外界センシングシステム
1.構成
 ロボットの視覚部にはカメラが主に用いられているが,画像だけでは対象物の正確な位置や形状,前後関係の把握は困難である。そこで本研究では,外界センシングシステムにカラーCCDカメラとレーザ距離計を併用し,画像と距離情報から対象物の識別,認識,距離検出を行うこととした。
 図2に外界センシングシステムの構成を示す。レーザ距離計(SICK LMS200)は内蔵された回転ミラーにより地面と平行な2次元平面内を最大180°,角度分解能0.25°,0.5° および1° で走査することができる。さらに,レーザ距離計を昇降装置で上下方向に移動させることにより,3次元距離情報を収集することとした。
 カラーCCDカメラ(Panasonic WV-CD2)はレーザ距離計の下方84mmの位置に,レーザ距離計の回転ミラー中心とカメラのレンズ中心が一致するように装着した。レーザ距離計とカメラを装着したテーブルは電磁ブレーキ付ACモータとボールネジによって上下移動し,その変位がロータリエンコーダで検出される。テーブルの移動速度は72.2 mm/s,ストロークは300 mmであり,テーブルが3.3 mm下降するごとにカメラによる画像入力とレーザ距離計による距離検出を一度行い,合計90回の情報収集を行うこととした。レーザ距離計のスキャン角度は100°,角度分解能は0.25° に設定した。
2.データの収集方法
 カメラ画像と距離情報の収集方法および対応付けは次のように行った。まず,レーザ距離計のスキャン角度は100° であるので,カメラの水平画角52°と一致させるために,レーザ距離計の正面に対して左右26°,計52°の範囲の情報のみを抜き出し,各走査で得られた情報を保存しておく。カメラに関しては,垂直方向に40°の画角を有しているが,レーザ距離計の走査方向と一致させるため,カメラで得られた画像中央の幅3画素の領域を水平方向に抜き出した。本研究では,カメラのレンズからから対象物までの距離を約600 mm と想定しており,昇降装置が上下方向に3.3 mm移動した場合,それに相当する距離が画像上で約3画素である。したがって,各画像の幅3画素の部分を水平方向に抜き出して連結すれば,対象物をレーザ距離計と同方向(地面と平行な平面)から見た画像が得られることになる。昇降装置による300 mmの移動が完了すれば,カメラとレーザ距離計のオフセット84mmを考慮し,連結画像と距離情報の対応付けを行う。
3.果実の識別方法
 本報ではトマト果実の収穫を想定しているので,赤く熟した果実を識別するアルゴリズムを検討した。識別方法としては,まずカメラの色情報を利用し,得られた連結画像からR-G>0かつR-Y>35の条件を満たす領域を抽出する。次に,画像で抽出された領域に相当する3次元距離情報において,隣接する検出点同士の検出距離を比較し,その差が4 mm以内であれば同一の物体としてラベリングを行う。トマトは一般に数個の果実が隣接して果房を形成しているので,画像だけでは複数の果実を一つの果実として検出する場合もあるが,3次元距離情報と融合することにより,個々の果実の識別や位置検出が行える。

V 実験結果と結果
ビニルハウス内で栽培したトマトに対して,本センシングシステムを用いて行った実験結果の一例を図3に示す。(a)はカメラから得られた連結画像であり,上述した条件で熟した果実のみを抽出した結果が(b)である。(c)はレーザ距離計によって検出された3次元距離情報全体に対してラベリングを行った結果である。本実験では,収穫ロボットの作動領域を半径1 m以内と想定したので,検出距離が1 m以上の物体はあらかじめデータから除外するアルゴリズムとした。したがって,(c)の白色の部分は距離が1 m以上の物体が存在する背景として表されている。ラベリングの結果,凹凸の大きな葉は数個の物体として検出されている場合も見られたが,果実や枝は個々の物体として識別された。(d)には画像と3次元距離情報を融合して果実の識別を行った結果を示す。カメラの画像だけでは識別が困難であった複数の果実も,3次元距離情報を併用することによって2個の果実を良好に識別することができた。しかし,ラベリングの過程において果柄の部分で複数の果実を連結し,一つの果実として認識する場合もあった。今後は検出距離の差だけではなく,形状や大きさなどのパラメータを含めたアルゴリズムを検討する必要があると考えられた。


VI おわりに
 上述したように,農業分野へのテレロボティクスの導入はこれまで開発されてきた自律型農業用ロボットの技術を現実的なものとして有効利用できるというメリットがある。また,インターネットなどを利用した農業技術と融合すれば,さらに充実したネットワーク農業が展開される可能性がある。


参考文献
1)門田充司・橋本幸太・三竿暢広・毛利建太郎・難波和彦・西卓郎:農業分野におけるテレロボの試み,農業機械学会関西支部報,91,31-34,2002