光量変化に対する植物気孔の動的反応解析
南 豊
1. はじめに
気孔は植物が外部環境と物質のやりとりを行う重要な器官であり,植物は気孔の開度を制御することで周囲の環境に対して適応している。また植物をとりまく外的要因の中でも,光の量は光合成と密接に関わっており,その影響力は大きい。本研究では光量の変化が植物の気孔運動に与える影響について観察を行った。
2. 実験装置
本研究では気孔の運動を非破壊かつリアルタイムで観察するため,光強度,温度,湿度,CO2濃度を制御できる環境制御室内において供試植物を栽培し,室内に設置した光学顕微鏡を室外の焦点調節スイッチで操作して葉の裏の気孔を観察した。そこから得られた顕微鏡画像をTVカメラを介してパソコンに取り込み,画像処理ソフトで気孔間隙の面積を求め気孔開度とした。実験装置の概要を図1に示す。供試植物は栽培・観察の容易さから観葉植物のポトスとした。
図1 実験装置
3. 実験方法
供試植物を明期2時間・暗期2時間の周期(以後基本周期とする)で成育させ,基本的に明期の時間帯で120分間観察を行った。環境条件は供試植物の成育に適した温度20℃,湿度60%,CO2濃度500ppmとし,光強度と光照射時間を実験条件に応じて変更した。各々の条件で4つの気孔を2回ずつ観察し,点灯直後の気孔開度を0として変化量の平均値を求めた。
4. 結果・考察
まず,点灯後に光条件を変化させた場合の観察を行うため,点灯30分後に光強度を0.4→1.5klx,1.5→0.4klx,1.5→1.0klxに変化させ,開度変化を観察した。その結果,0.4→1.5klxのように光強度を強くした場合は即座に気孔開度が増加したが,1.5→0.4klx,1.5→1.0klxのように光強度を弱くした場合は特に気孔の挙動に変化はなく,変化前の光強度を継続したような値で推移した。(図2)
図2 光強度を変化させた時の気孔開度変化
光強度を弱くしても気孔運動に変化が見られなかった点に注目し,点灯後に消灯した場合の気孔閉鎖の様子を観察した。光強度0.4klxまたは1.5klxで点灯後,10分経過時に消灯して240分間の観察を行った。この時比較対象として,消灯しなかった場合についても同様に観察を行った。その結果、10分で消灯したにも関わらず気孔開度は基本周期の時と同じような傾きをとり,0.4→0klxの場合は180分,1.5→0klxの場合は 240分経過時にほぼ閉じ終わった。(図3)
図3 基本周期と10分後消灯時の気孔開度変化
消灯直後に気孔閉鎖はなく,基本周期の暗期である120分以降に気孔閉鎖が完了している点から,基本周期の明期と暗期では気孔の応答が異なるのではと考えられた。そこで基本周期の暗期に点灯した場合の開度変化を観察するため,点灯開始時間を60分または120分遅延し,光強度1.5klxで点灯した後10分経過時に消灯した。その結果,基本周期の暗期に点灯した120分遅延では遅延なしの場合と異なり,点灯による気孔開放のあと速やかに閉鎖が始まり,遅延なしの周期にほぼ従って変化した。60分遅延の場合も遅延なしの周期にほぼ従って変化し,気孔が点灯開始のタイミングに関わらず基本周期に沿った反応をしていると考えられた。(図4)
以上の実験結果から,一定の光周期におかれた植物はそれに沿った気孔開閉の周期を獲得すると考えられた。
図4 点灯開始する時間を遅らせた時の気孔開度変化
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