静電気を利用した播種機に関する基礎研究
−タマネギの種子を対象とした吸着実験−
村山 寿康
1. はじめに
セルへの1粒播種を前提とするポット播種機においては,種子の大きさや形状などのばらつきを抑えるため,コーティング種子を用いる場合が一般的である。コーティング種子は形状がほぼ一定なので機械作業に有効であるが,裸種子に比べてコストが高い。裸種子を対象とした真空播種機も市販されているが,構造が複雑で価格が高く,高速作業には適さないという問題点がある。そこで本研究では,裸種子を1粒ずつ播種することを目的として,静電気を利用したピックアップによる吸着実験を行った。
2. 実験材料
本研究では対象としてタマネギ種子(スーパー北もみじ玉葱)を用いた。種子100粒の各寸法の平均値は,長さが2.9 mm,幅が2.1 mm,厚さが1.6 mmで,100粒重は0.38 gであった。
3. 実験装置と方法
実験装置は,静電誘導の原理を利用して静電気を発生させる静電高圧発生装置とそれを駆動させるためのモータ,種子を吸着するピックアップから構成されている。静電高圧発生装置から発生する電位は2〜5 kV程度に調節した。ピックアップは直径5 mmの鉄製の丸棒で,先端から10 mmまでを絶縁体で被覆し,電荷の偏りによる誘導分極を利用して容器に入れた種子を接触させて吸着させる。また,絶縁体に紙を用いた場合には種子が吸着しなかったので,ピックアップ側面への種子の吸着を防ぐため周囲を紙で覆った。実験は絶縁体の材質,ピックアップ先端の形状を変化させ,種子の吸着数を測定した。1粒以上の種子が吸着した割合を吸着率とし,1粒だけ吸着した割合を1粒吸着率として評価した。ピックアップの先端形状は図に示すようにAは平坦な切断面,Bは円錐状,Cはすり鉢状とした。
図 ピックアップ先端の断面形状
4. 実験結果と考察
絶縁体の材質による種子の吸着率の比較を表1に示す。このときのピックアップの先端はAである。実験の結果,吸着率および吸着数の平均値が最も高かった塩化ビニルを被覆材料として使うこととした。次にピックアップの先端の形状を変化させたときの結果を表2に示す。実験の結果,先端が凹型のピックアップCが最も高い吸着率を示した。これは,種子とピックアップの接触面積が大きくなるためと考えられる。Aは複数の種子が吸着することが多く,Bは吸着率でCより劣っていた。Cの場合でも複数の種子を吸着してしまうことが多かったため,Cの内径が3 mmになるように加工したDでは,1粒吸着率が78 %と向上した。以上の結果から,静電気利用は裸種子の播種において有効な手段の一つであると考えられた。さらに1粒吸着率を向上させるために,さらにピックアップの形状や種子への接触方法などを検討していく必要がある。
表1 材質の比較実験結果
材 質 | 吸着率(%) | 平均(粒) |
塩化ビニル | 80 | 1.0 |
ポリオレフィン系フィルム | 40 | 0.5 |
ポリ塩化ビニリデン | 20 | 0.2 |
表2 先端形状の比較実験結果
形状 | 吸着率(%) | 1粒吸着率(%) | 平均(粒) |
A | 60 | 30 | 0.9 |
B | 70 | 60 | 0.8 |
C | 90 | 60 | 1.2 |
D | 84 | 78 | 0.9 |