植物気孔の環境応答モデリング
谷川 純一
1. はじめに
植物が外部環境と物質のやりとりを行うのは根と気孔であり,植物は気孔の開度を制御することで周囲の環境に対して適した光合成や生命活動を行っている。気孔の環境応答をフィードバック制御の過渡応答としてとらえてモデリングを行ったこれまでの研究では,照明点灯に応じて気孔が開いていく様子は良く表現できたが,ピーク値を過ぎた後徐々にある開度に近づいていく様子を再現することはできなかった。そこで今回は穏やかな応答には温度や湿度などの環境条件が作用していると仮定して,それぞれの時間帯でのモデリングを行った。
2. 測定装置及び方法
本研究では,環境制御室内で非破壊かつ直接的な観察ができるシステムを用い,葉の裏の気孔を顕微鏡からCCDカメラを介してリアルタイムで観察した。そして、その顕微鏡画像から画像処理装置で気孔間隙の実面積を求め気孔開度とした。供試植物は観葉植物のポトスとし,環境要素は,光強度を0.5klxと2klx,温度を25℃と10℃,CO2濃度を500ppmと1500ppm,湿度を30%と80%の,それぞれ2つの設定をもうけた。これらの組み合わせで合計16通りの環境条件下で照明点灯時から6時間の気孔応答を観察した。
3. モデリングの方法
本研究では2次遅れの関数を用いて,@ピーク値までの立ち上がりを重視して近似を行ったものと,A立ち上がり後の応答に合わせて係数を決定し近似を行ったもの,2種類のモデルを比較した。また、近似式の各係数は環境条件により決定できると仮定し,2次遅れの各係数である収束値a,周期ω,振幅ζ(0<ζ<1)を目的変数、環境条件である光強度,温度,CO2濃度,湿度を説明変数として多変数回帰を行い,環境条件から気孔の環境応答のモデルを作成した。また,回帰に使用しなかった2klx,25℃,500ppm,80%の環境下で計測結果を評価用のデータとした。
4. モデリングの結果と考察
環境条件により決定した各係数は0.50<R2<0.77の値を得た。また,aとωには温度が,ζには湿度が強く影響しているという結果を得た。この係数を基にモデリングを行ったところ,モデル@は実測値への相関が平均R2=0.54とモデルAの平均R2=0.44よりも高かったが,図1のように値が収束しない非現実的なカーブを描く場合があった。図2に示す評価用のデータへの相関はモデル@がR2=0.93,モデルAがR2=0.51となり,モデル@で高い値を示した。これは立ち上がりへの追従性が寄与率に大きく作用したためで,後半の応答に対してはモデルAが近い形を再現できたといえる。このことから,照明点灯後1時間以内の早い応答とその後の周期の長い応答を分けるモデリングは有効と考えられた。
図1 モデリング結果 図2 モデリングの評価結果