レーザ距離計を用いた農業ロボット用外界センシングシステム

レーザ距離計を用いた農業ロボット用外界センシングシステム

生産システム工学 三竿暢広

1.はじめに
 現在までにロボットが圃場内の情報を得る手段として超音波センサを用いたセンシングシステムが開発されており,その有効性は確認されている1)。しかし,超音波センサの指向性や検出時間などの影響で,対象物の形状や大きさを正確に検出できない,複数の人間を検出できない,という問題点が残されていた。そこで本研究では超音波センサに比べ指向性,検出時間,分解能などで優位性のあるレーザ距離計を用い,人間を含む物体の検出及び複数の人間の識別と移動の検出を行った。

2.実験装置
 距離センサとして用いたレーザ距離計(ジック (株),LMS200)は,レーザ光の伝播時間をもとに距離検出を行っており,内蔵されたミラーの回転により,周囲180°の距離検出が行える。検出された距離情報は,シリアルインターフェイスRS422を介して出力される。使用するレーザ光はクラス1のアイセーフタイプであるので,人間の検出に適している。実験は角度分解能0.5°で行い,180°の1走査で361の距離情報を得た。

3.実験方法
 実験に先立ち,圃場内で人間を含む物体の検出をレーザ距離計で行い,超音波センサより正確な検出が可能なことを確認した。その上で,図1のフローチャートに従ってブドウ園内で実験を行った。レーザ距離計は地面から90cmの高さに設置した。まず,人間がいない状態でレーザ距離計の走査を開始し,0.5°ごとに得られた距離情報とそれに対応する角度から座標を算出し,背景(木,支柱など)の情報として保存しておく。レーザ距離計を中心とする半径5mの範囲に人間が接近すれば,人間を含む情報から,先に保存しておいた背景の情報を差し引き,人間の情報のみを抽出する。この情報は人間の幅によって複数の検出点で構成されるので,その検出点座標の最小値,最大値の中点を代表点とした。検出範囲内に複数の人間が存在した場合には,その時点で検出された代表点と,1走査前に検出された代表点の距離を比較し,最も距離の小さい組み合わせを計算することで,人間との対応付けを行った。



図1 実験のフローチャート

4.結果と考察
 図2にレーザ距離計の前方を二人の人間が反対方向に移動した場合の実験結果例を示す。図中の番号は検出された順番であり,同じ番号は同一の走査で検出されたことを表す。なお図中の▲印は,木あるいは支柱の位置を表しており,人間と背景との識別の段階で削除されたものであるが,参考のため掲載している。実験の結果,背景の情報は除去され,圃場内に存在する物体の影響を受けずに人間の識別および移動の検出が良好に行われた。人間Bの影響で,レーザ距離計の検出範囲に死角が生じ,人間Aの移動が一時((10),(11))検出されていない状況が生じたが,その後再び検出され,正しい位置情報が検出された。
 次に図3にレーザ距離計の前方を二人の人間が×字に交差した場合の実験結果を示す。この場合,二人が接近,交差した箇所((5)〜(10))において人間Bが検出されず,再び検出された後にはA,B両者が入れ替わってしまった。これは,人間の動きの対応付けを距離だけで行ったためである。

            
  
図2 実験結果1
図3 実験結果2

5.おわりに
 レーザ距離計を用いることにより,超音波センサでは検出が不可能であった幅の狭い物体(木や支柱など)の正確な位置情報を取得できた。また,距離を元にした識別アルゴリズムによって,複数の人間同士がある程度はなれている場合には識別することができたが,より確実に識別を行うためには移動方向の確率的な予測などをパラメータに含んだアルゴリズムの検討が必要だと考えられた。

参考文献
1)門田充司ら:農業用ロボットのマン・マシン協調システム(第2報),農機誌,61(2),91−100,1999