い草挿し苗装置の開発
い草挿し苗装置の開発
橋本 幸太
1. はじめに
い草の苗生産においては,親株から2,3本の苗を採取して長さを調整し,ある程度数が揃った段階で別の作業者がトレイに植え付け,一定期間の育苗後に移植する,といった作業行程が主流である。移植作業は機械化されているものの,株分けからトレイへの植え付けに至る行程は手作業で行われており,多大な労力と時間を要している。そこで本研究では,株分けされた苗をトレイに植え付ける装置を開発した。
2. 実験装置および方法
試作した装置は主に,上下移動して苗をトレイに植え付ける植え付け部,トレイを移動させる移動部および制御部から構成されている。図1に植え付け部の概略を示す。まず,投入口へ投入された苗が光電センサで検出されると,エアハンドに取り付けたフィンガが閉じ,植え付けパイプとともに下降する。植え付けパイプの先には蓋がついているため投入された苗が落下してしまうことはない。植え付けパイプは上下方向に自由にスライドする構造になっており,植え付け部先端がトレイに接触した時点でスライドを開始し,苗がパイプ先端の穴を通過して培土に植え付けられる(図2)。植え付けパイプは40mmスライドするが,その間にフィンガに設定値以上の摩擦力が加われば,苗の座屈を防止するためにフィンガと苗がスリップする。この構造により,根の長さに関わらず,苗をトレイの底部まで植え付けることができる。パイプがスライドし終わるとフィンガを開き,植え付け部が上昇する。移動部によってトレイが隣のセルへと移動される。アクチュエータにはエアシリンダおよびDCモータを用い,センサ類の信号の検出およびアクチュエータの制御にはプログラマブルコントローラを用いた。本装置は2本の苗を同時に植え付けられる構造になっており,その植え付け時間は1秒以下である。実験には,茎長150mm,根の長さ10mm以下に調整した苗を用いた。
3. 実験結果と考察
トレイ1枚分(320本)の植え付け実験結果の例を表1に示す。実験の結果,約93%の苗を植え付けることができた。植え付けに失敗した事例としては,既に植え付けられている苗が植え付け部の部品の一部に引っかかったため引き抜かれた場合が約4%あった。苗が傾斜して植え付けられた場合,隣接するセルに対して植え付け部が下降する際に,苗の先端がパイプの穴に入り込み,引き抜かれる場合もあった。また,根が広がった苗がパイプを通過できずに植え付けられない事例も見られた。今後,装置の改良とともに,機械化に適した苗の調整方法を検討する必要があると考えられた。
表1 実験結果
サンプル数
割合(%)
成功
297
92.8
植え付け後に抜ける
12
3.7
パイプを通過せず
5
1.6
他の苗が障害
1
0.3
その他
5
1.6
合計
320
100
図1 植え付け部の概略図
図2 植え付けの様子